結局、誤解が解けぬままヤーフェ講師と別れたヨウス。
 廊下を戻る途中でまだ睨み合っている二人を発見し、溜め息をついた。

「ランス、終ったから」
 肩を叩くと、鉄面皮の眉がピクリと動き、ヨウスを振り向く。
「…………」
「…………」
 いつの間にか用が済んでしまったことが気に入らないようだ。
 しかたがない、済んだことだ。

「ちょっと待って、クォーズ」
 ヨウスを呼び止めると、ルリは自分の後ろにいる女生徒を促した。
 もしかして、ずっとルリを待っていたのだろうか。

「彼女たちが、用があるんですって」
「……俺に?」
 嫌な予感はしたが、ルリからいわれて無下に断るわけにもいかない。

 用があるといったものの、女生徒らはなかなか口を開かない。
「ほら、早く」
 ルリに背中を押されて、やっと目の前に来る。
 それでも俯いたままモジモジして、互いに肘で押し合っている。

 見慣れた光景だ。
 このあと彼女たちは手紙や箱や包みを差し出し、後で開けてくれと言い去って行くのだ。

 いわゆる告白だ。
 懺悔ではない。

 一人が何やら小さな包みを取り出した。
「あの……」
「こ……今日、実習でよくできたんです!」
 包みを差し出す女生徒が顔を赤くして何度も頷く。
「先生からも褒めてもらったんです」
「み、みんなも、美味しいって……」

「あんまり甘くないんです」
「クルミを、少し、い、いれて……」
「形はちょっと悪いけど、キレイなのだけ選んできました!」
「あ、な、何枚か焦げちゃって……」

 一度口を開くと、今度は止まらなくなったようだ。
 ヨウスは手を上げた。
「あ」
 包みを持つ女生徒の手が震える。

 だがヨウスは、彼女たちに手の平を見せただけだった。
「何も貰わないことにしてるんだ」
 女生徒たちの口が止まり、顔が青褪める。
「でも……」
「ホント美味しくできたんです!」
 ヨウスは首を振った。

「どんなに美味しくても、珍しくてもだ」
「ひ、ひとつくらい……」
「今日はひとつでも、明日は百個になっているかもしれない。
 俺は店を開く気はない」

 自惚れているわけではない。
 実際、そうなった時のことを考えたら、胸焼けがしたのだ。

 女生徒の後ろで黙っていたルリが、溜め息をつきながら一人の肩に手をおいた。
「クォーズはみんなにこうなのよ。
 諦めたほうがいいわ」
「…………」
「…………」

 これ以上、女生徒たちはいうことが出て来ないようだと確認すると、ヨウスはルリに目配せした。
「それじゃ」

 傍観者を決めていたランスと歩きだしてしばらく。
 角を曲がったところで重い衝突音がした。
「何だ?」
「戻ろう」

 急ぎ足で事務所に向かう。
 その手前、先ほど別れた位置にルリたちがいた。
 ルリは一人壁に背を預け、女生徒たちをみている。

「何とか言いなさいよ!」
「な、何をよ!?」
「わかっててやったんでしょ!?」
「最初に言ったじゃない。
 クォーズは何も受け取らないって」
 どうやらまた自分のせいかと、ヨウスは重い溜め息をついた。

 ルリに近付くと、女生徒二人がヨウスに気付いて肩を震わせる。
 事務所からも講師が数人、駆けつけた。
 ヨウスの顔を見て眉を寄せる。
「クォーズ……また君か」
 どうやら要注意人物になっているようだ。

「お騒がせしました。
 彼女は送っていきますので」
 しかし、と講師は渋る。
「わたしも同行します。
 ご心配なく」
 ヨウスの後からランスがゆっくりとやって来て言った。