「いつもより早いけど……」
「早いのか?」
 記憶の限り、ヨウスが手紙を出すのはこれで二回目。
 一季に一度くらいだ。
「多くても年に四・五通くらいだったから」
「へー」

 文通をしているわけでもないから、相手からの返事はないらしい。
 ただ送れといわれたから書いて送る――それなら、年に四・五通は適当かもしれない。

「このところ、書くことが多くて……」
 ヨウスは照れたように苦笑した。
「学舎って、いろいろあるんだな」
「…………」
 珍しくヨウスの素顔に近い笑み。
 やはり、ティセットのことで無理をしていたのかもしれない。

「学舎、楽しい?」
「あ……」
 ヨウスの顔が固まる。
「気にするなよ。
 ヨウスが悪いんじゃないだろ?
 俺の運が悪かったんだ」
「…………楽しい、と、思う」
「思う?」

 買ったばかりの紙に視線を落とすヨウス。
 まつ毛の影も目元に落ちる。

「こういう……歳の近い人間のなかで過ごすのは、たぶん、初めてなんだ。
 まだ、慣れないこともあるし、本当に『楽しい』ものは何なのかわからないけど、俺は、楽しいと思う」
 ただ、と言い淀む。
 言葉にしなくても、ティセットにはわかっていた。

 ――ティスがいない

 わかっている。
 でも、どうすることもできない。
 してやれない。

「……ティスのせいじゃない」
「うん……」
 入れ替わり立ち代わりやってくる東寮の学生たち。
 戻って来いとは言えない歯がゆさ。
 泣き言しか出ないのに居続けられる自分と、期待されていたはずなのに退舎しなければならなかったティセット。

 おまえは悪くない。
 おまえに期待するしかなかった、頭の悪いオレたちが悪いんだ――。

 同じ授業を受けていたラングが、試験のあとに自棄酒に来て言った言葉。
 そのときは、酔っ払いだと思って適当に相槌を打っていた。
 きっとラングの本心だったのだろう。



「ティス?」
「巧くいかないもんだよな。
 家族のためにって飛び出して来たのにさ、結局こうだし」
「…………」
「ホント、ツイてないよなぁ!」
 明るく言ったつもりだったが、巧くいかなかったようだ。
 ヨウスの表情は晴れないままで、ティセットを見ようともしない。

 気まずい空気が二人の間を漂った。
 ガチャガチャと周囲は騒がしいのに、そこだけ静かだ。
 店内から賑やかな声が零れてくる。

「…………あ」
「え?」
「仕事、戻んないと」
「あぁ」
 曖昧だが何とか切り口を見つけたティセット。
「合格してたら奢るよ」
 ヨウスは小さく頷いて、帰っていった。

 その後ティセットは、宿屋の若女将が転びそうになったことを報告し、ニッチのお女将さんから拳骨をいただいた。
 頭に穴が開くかと思った。


   *  *


 中級試験発表の日。
 恐らく忘れていたのだろう。

「いやだー!」
「観念しろ!」
 寮室の扉にしがみついたトルクを引き剥がそうと奮闘するルフェラン。
 せっかく整えた髪が乱れている。

「毎回毎回何なんだよ!
 落ち慣れてるくせに駄々こねるんじゃない!」
「落ち慣れてない!」
 トルクは抗議したが、すでに涙目だった。

 長身二人のやり取りは見慣れたものなのか、学生たちは素通りだ。
 たまに笑いを堪えながら、時折ルフェランを応援しながら過ぎて行く。
 無情だと、ルフェランは思った。