どう思う? と最後は尋ねられた。

 自分はいつの間に相談屋になったのだろうか。
 しかもみんな仕込みの時間を狙って来て、喋りながら手伝ってくれる。
 ありがたいような気もする。

 先日は、同じ授業を受けていたラングがやって来て、
「スッゴイよ俺!
 クォーズと喋っちゃったよ!?」
 興奮のあまり一人で酒樽を五つも運んでくれたのは助かったが、ヨウスと会話したくらいで何だと言うのだ。
 同室生だったティセットには、驚くところがわからなかった。



「ヨウスが頭イイのはわかってただろ?」
「でも五十問だよ?」
 信じられないとルフェラン。
「ティスだってさすがに覚えきれなかっただろ?」
「何度かあるよ」
「そうだろ? 覚えたよね?
 だから僕が驚く…………え?」
 ルフェランの動きが止まった。

 人形のように目を開いたまま固まった姿は、羨ましいくらい長身だ。
 ヨウスは美人だが、ルフェランはかっこいいと思う。
 悔しいので、絶対口に出して言わないが。

「…………覚え……?」
「文学の中級のとき、読んだことある本から出された問題だったから、覚えられたんだ。
 語学も初級は覚えてたかな」
「うそ…………」
「ウソだと思う?」

 これでも最速昇級をした男だ。
 上級のときはさすがに緊張と難度の高さに覚えられなかったが、他でも半分は記憶していた。
 記憶できたのは二・三日間のことだが、復習するには充分だった。

「じゃぁ何?
 ティスは僕があれ間違ったかも、あれ何だったっけとか悩んでるとき、悠々と復習してたわけ!?」
「だって、ランは試験の翌日は寝て過ごすだろ?」
「起こそうとか思わなかったわけ!?」
「起こしちゃかわいそうだと思って」

 何だよもうティスのバカー、と顔を覆って泣き出したルフェラン。
 泣き所がわからない。



 グチグチと言い出したルフェランは放っておき、ティセットは仕込みを急いだ。
 数種類の串を作ったあと、店内の椅子を机から降ろし、机を拭く。
 夜の営業前の準備で、任されたのはこれだけだ。
 厨房はニッチの親父が良いと言うまで入ってはいけない。

 串以外の仕込みはまだ教えてもらっていない。
 肉や野菜の漬物はお女将さんが教えてくれるが、まだ半人前のティセットができることは限られていた。



 机を拭き終わって、ふと気付く。
 入り口近くの席に座って、ルフェランがじっとこちらを見ていた。
「何?」
 物言いたげな目に尋ねてみる。

「僕は何もできないね」
「……急に…………どうした?」
 ルフェランは溜め息をついた。
「学費も借りれなかったし、今度の試験は落ちてそう」
「学費のことは良いって。
 試験だって、また次があるさ」

「僕には次があるのに、どうしてティスにはないんだろう?」
 もう一度振り返ったとき、ルフェランは机に突っ伏していた。
 表情は見えないが、声音で悔しさが伝わった。
「ラン……」

「ヨウスに言われたよ。
 どうして身内じゃないといけないんだって。
 身内じゃないから、無償では何もできないのか……ってね」
「いつ?」
「春来祭の日。
 ティスが辞めるって言った夜」

 ツキン、と胸が痛んだ。

 悔しかったのは自分だけではない。
 この痛みは、友人たちも共用していた。
 そう思うと、何も言えなかった。
 まだ学生でいられて羨ましいなんて、絶対に口にできない。