そして試験は終わり、東庭には生徒たちが集まっていた。
 落ち込んだ様子の者もいれば、安堵の表情を浮かべる者もいる。
 空元気に振る舞う誰かの高笑いが虚しい。

「…………」
「…………」
「…………」
「……どうだった?」
 堪らず訊いたのはルフェランだった。

「ぼ、僕は大丈夫だと思……わないんだよね」
 商学中級のルフェラン。
 トルクの宿題に付き合っていたせいもあり、自信はない。

「俺は……まぁ、たぶん」
 うん、と頷くヨウスは語学中級。
 余裕顔が羨ましい。

 三人の視線は自然、ヨウスと同じ語学中級を受けたトルクに移動する。

 そのトルクは放心状態だった。
 薄く開いた口から涎が出てきそうなくらい、意識がない。

「……ムリそうだな」
 ランスが呟く。
「ま、まだ続くのか……!」
 一番の被害者が頭を抱える。

「……トルク」
 ヨウスが肩を叩きながら呼ぶと、虚ろな目が移動する。
「答え合わせをしよう」
 トルクの手に黒板と白石を握らせるヨウス。
 何事だろうかと見守る二人も、おもわず黒板と白石を手に取った。

「一問目、『ぎろん』」
 ランスが書き終わるのと同時に、ルフェランの黒板にも同じものが書き出される。
 トルクの手はまだ動いている。

「……次、二問目、『すうこう』」
 今度はルフェランのほうが早かった。
 やはりトルクは遅い。
 それでも辛抱強くヨウスは待ち、三問目を口にした。



 徐々に問題は難しくなる。
「十八問目、『ぎょうこう』」
 一旦、トルクの手が止まる。

 死んだモグラの目のようだったものが、いつの間にか必死になっていた。
 唇を舐めて、ゆっくりと書く。

「十九問目、『せいかいかいせんぼうえき』。
 二十問目、『せいさんみゃくりゅうずぶ』。
 二一問目、『へいこうれきかいていきねん』……」

 半分を終ったところで、今度は読み問題になる。
 ヨウスは自分の黒板に問題を書き、トルクに見せる。
「お、へ、こんらんねんれき。
 えー……か、るおねこっきょう、もんだい。
 こるでくと、だ、だ、だい、こと?」

 詰まりながらも、何とかできていそうな気配。

 五十問すべてが終わると、ヨウスは口元に笑みを浮かべた。
「間違いは十三問。
 合格点だ」
 ぱーっとトルクの顔が明るくなる。
 ヨウスの袖を掴んで口をパクパクと動かす。
 嬉しさのあまり声がでないらしい。

「ま、ま、まままマジ!?」
 やっと出た声は歓喜していた。

 ルフェランは安堵した。
 今晩はゆっくり眠れそうだ。



 ふと、隣りのランスが難しい顔をさらに複雑にしているのに気付いた。
「どうした?」
「…………うん…………」
 うんと言ったものの、ランスの口は開かない。
 トルクにしがみつかれて腰の引けたヨウスをじっと見ている。

 何かあるのかと同じようにヨウスを見ていたルフェランは、気付いた。
「…………あ」
 恐ろしいことに気付いて、ランスをまた見る。
 目が合った。
 ランスの頷きで、同じことに気付いたのだと知った。

「まさか…………」
 そんなまさか。
 つい先ほどとはいえ、ヨウスは五十問すべて覚をえていたというのだろうか……?