最悪なことにその日、ルフェランの寝癖は治らず、トルクは緊張のあまり寝ていなかった。
 それでも無情に試験は始まる。

「ヨウスたちはあっちだよ。
 終ったら、いつもの庭で昼飯にしよう」
 ルフェランと寮長ランスに見送られ、ヨウスとトルクは試験に向かった。

「どう思う?」
 心配げなルフェラン。
 廊下の向こうで小さくなった背中に手を振る。
「クォーズは心配ないな。
 問題は……」
 腕組みをしてランス。

「「トルクだ」」
 声がハモった。

 お互い見つめ合って深い溜め息をつく。
「祈ろう」
「そうだな」
 もうそれしかない。



 交換生のトルクは、来年には皇都に帰ってしまう。
 それまでに語学の中級と、その上の文学か史学の初級を取らなければならない。
 実績を残せなかった場合、次の交換生に影響が出てしまうのだ。

 初級試験は毎季あるが、中級・上級は年に数回しかない。
 これを逃せば、また再来季まで待たなければならない。

 どうにか、いや、いい加減に合格してほしい。
 質問攻めにあう同室のルフェランのためにも。



 二人が見えなくなると、廊下の窓から外を眺める。
 試験教室に向う生徒のピリピリとした緊張が廊下に充満し、息苦しかった。

「……で、学費の話は?」
「僕の顔見てわかるだろ?」
「見事な寝癖だ。
 流行か?」
「殴られたい?」

「…………はぁあ」
「…………ふぅう」
 二人して吐き出した溜め息の深いこと。「難敵だな」
「難攻不落だ」

 寮長ランスは、寮長の肩書きどおり、上等生だ。
 制服も白色。
 
 東寮の寮長は必ず上等生から選ばれる。
 だが、貴族子弟が庶民と混ざりたいなどと―――部を除いて――思うはずがなく、裕福層出身者から選ばれる。

 そんなランスも、一般層からの上等生が現れないかと期待していた。
 親の権力を笠に着た貴族子弟の鼻を折ってやりたい。
 学費や学力に問題がないのに、いじめを苦痛に辞めたもの、濡れ衣を着せられたものの敵を取りたい。

 だからティセットには期待していた。
 東寮に身を置く上等生トルクの友人。
 入舎二年足らずで初等から中等に上った実力。
 期待して良いと思っていた。

 まさか学費で躓くとは。

 ランスは顔に出にくいが、ティセットの退舎を聞いたときは失神しそうになったほどだった。



 ちなみにランスは、ルフェランと実家を隣りにする西区の商家に生まれた。
 二人の親が幼馴染みで、家族ぐるみの付き合いだ。

「うちも、兄貴が財布の紐を握ってるからな」
「ライトさん、お金が絡むと人が変わるしな」
 いつもニコニコとして愛想の良いランスの兄は、お金と聞くと目の色が変わる根っからの商人だ。

「…………はぁあ」
「…………ふぅう」
 裕福層なのに脛を囓らせてもらえない息子たちは、白い雲に向かって溜め息した。