「まぁ、そう気に病まず。
 それにしても、クォーズ君はそんなに頭が良いのかね?」
「…………」
「…………」
「…………」

 なぜか、いや、おそらくわざとではないだろうが、ヤーフェ講師が尋ねた先はルフェランだった。

「ヤーフェ講師。
 ヨウス・クォーズはこっちです」
 さすが鉄面皮ランス寮長。
 何事もないかのように突っ込んでくれた。

 ルフェランから、ランスが指差す方へ視線を移動させるヤーフェ講師。
 その仕草は山羊に似ている。
 そして山羊のようなヤーフェ講師は、ヨウスを見てカエルのように跳ねた。
「は?!
 クォーズ君は男生徒だと聞いているが?」
 ヤーフェ講師は心底驚いた様子で、奥歯の虫歯まで見せた。

 ルフェランが肘でヨウスを突く。
「…………」
 そうっと手を上げてみるヨウス。
 ヤーフェ講師の瞳がカッと見開かれる。
「…………っ」

「がんばれヨウス。
 負けるな!」
 何に打ち勝てと言うのだろう。
 ルフェランの励ましは無駄に傷を深くした。

「ヨウス……クォーズ、です」



 ヤーフェ講師は長いこと沈黙した。
 ヨウスを頭から靴の先まで眺め、へー、ほー、と頷く。
「いやコレはまた、へー、ほー」
「…………」
 真正面からジロジロと見られ、ヨウスはおもわず俯いた。

「ヤーフェ講師、ご用は何でしょうか?」
 呼ばれた本人は当てにならないと、ランスが用件を尋ねてくれた。
 それまで本題を忘れていたらしいヤーフェ講師は、パチクリと目を瞬かせる。
「あー、そう……そうだったね」

 実はね、と言ったヤーフェ講師は何かに気付いたらしく、慌てて事務所に戻った。
 戻ってきたときには、手に一冊の本を持っていた。
「わたしは趣味で古代史を研究していてね。
 ガラスト語を解読したいんだけど、なかなか手強くてねー」

「それで、ヨウスになぜ?」
「図書室でガラスト語の本を借りている人を調べてもらったんだ。
 これを解読してほしくてね」
 先ほど持ってきた本を三人に見せる。

「…………」
「…………」
「…………」
「……読めるんだったら言っていいんだよ、ヨウス?」

「…………ご」
「ご?」
「ゴーラ、地方史……編纂、集……」
「何そ」
「やっぱり?!」
 ルフェランの言葉を遮り、興奮した喜声を上げるヤーフェ講師。

「南大陸カフィダーナ。
 砂の海砂漠の最南、活火山ボルカノの東。
 戦闘民族の元祖、ガスティアン族の居住地」
 そこまで一息に言うと、ヤーフェ講師はキラキラした眼差しをヨウスに向ける。
「だよね!?」

「……ち……違います」
「ウソ!?」
 ヨウスの答えにヤーフェ講師は動揺したが、他の二人には大きな間違いに感じなかった。
 だって、読めないから。
 そこがどこなのかもわからない。

「な、ど、ど、な、どどこ?」
 あまりの衝撃に、ヤーフェ講師はヨウスの制服にしがみついた。
 真ん丸の目がウルウルとしていて、今にも泣き出しそうだが、かわいそうどころか恐ろしくてしかたない。