「初級か中級の先生が、上級の先生にイイ生徒がいますよって、まず言うんだ。
 それで、上級の先生が面接して、許可、不許可を出す。
 許可がでたら、初級から上級の先生の前で特別試験を受けられるんだ」

「それと、俺が呼ばれた意味につながりが?」
「上級の先生に呼ばれるってことは、飛び級の可能性が大きいんだよ」
 と、ルフェランは教えてくれたが、やはりピンとこなかった。



「ランス」
 寮棟の玄関口で立ち止まったルフェランが振り返る。
「ヨウスはこのまま僕が連れてくよ」
「いや、俺も騒ぎを起こした。
 講師に説明しておくべきだろう」

 ランスの堅苦しい言葉に、真面目だなぁ、と笑うルフェラン。
「おまえたちが適当すぎるんだ」
 歩きだしたその背に向かって、ランスがいつもより軽い口調で言った。
「いぃやー、寮長が堅いんだよ」

 な、とルフェランが背後のヨウスに同意を求める。
 だがヨウスの背中には当の寮長がいるものだから、気軽に「そうだな」なんて言えるはずがない。

「…………」
「ほぉら、ランスが怖い顔で脅すからー」
「地顔に文句をつけるなっ」
「ヨウス、大丈夫だからな。
 ランスは顔が怖いだけで、イイやつなんだぞ」
「取って付けたように言うなよ!」

「ランスほら、あのヘンな顔して」
「ばっ、ばか!」
「あれスッゲー笑えるんだよ」
「うるさい忘れろ!」
「アハハハハだめだ、ハハ、思い出しちゃった」
「忘れろって!」

「…………」
 人を間に挟んで言い合わないでほしいと、ヨウスは切に願った。


   *  *


 本館の事務所には、まだ数人の講師が残っていた。
 試験が近いので生徒は中には入れない。
 しかたなく入口近くの講師に頼んで、ヤーフェ講師を呼んでもらった。

 男性講師が一人、小走りにやって来た。
「いや、急にすまなかったね」
 そういって、ボサボサの髪をさらにかき混ぜる男性講師。
 本当にこの人が上級の講師なのだろうかと驚いていると、
「ヤーフェ講師、ヨウス・クォーズを連れてきました」
 本物らしい。

 ヨレヨレの制服は色褪せ、下衣の裾は綻んでいる。
 珍しい眼鏡はわざとなのか斜めに、大きな鼻の上に乗っている。
 そして、なんといっても、髪と同じボサボサのヒゲ。
 鳥の卵が乗っていても不思議ではないだろう。

「……おや、ランス寮長。
 わざわざ連れて来てくれたのかね」
「実は少々、騒ぎが起きまして」
「そうかそうか。
 うん、じゃ、立ち話もなんだ、廊下に行こう」

 ヤーフェ講師にいわれ、三人は廊下途中の休憩所に移動した。
 そこは廊下の一部が幅広くなり、外観は出臍のようになっているのだろう。
 壁際に長椅子が置かれ、小さな机がぽつんとあるだけ。
 窓の外はすでに夜闇。



 先に忙しい寮長の話を聞いたヤーフェ講師は、大きな口をぽかんと空けて驚いた。
「あー、いやいや、それは悪かった。
 残念ながら、飛び級のことではないんだよ。
 試験が近いというのに、こんな時にわたしが呼び出したのが悪かった」
「いいえ、わたしも配慮するべきでした」