席を立とうとしたルフェランは、たくさんの手によって席に戻される。
「おまえはいてくれるだけでいいんだ!」
「喋るなってことだな?」
「そうじゃないけど!」
「けど?」

 集まった生徒たちは全員言葉に詰まり、顔を見合わせた。
「だってさー、なぁ?」
「え! あー、うん、ホラ、な!?」
「なぁあ?」
「えー!?」

「…………」
 何だかよくわからないが、もしかしたらいないほうが良いのは自分ではなかろうか、とヨウスは思った。
「ラン、先に休むよ」
 今度はヨウスが席を立つ。
 と、生徒たちも立ち上がった。

「何で!?」
「え? い、いないほうが良いかと思って……」
「ち、違う違う!」
「待った待ったぁー!」
「おおお落ち着けっ」
「おまえらが落ち着け」
 ぺん、ぺん、と後頭部を誰かが叩いた。

 叩かれた生徒たちが振り返る。
「りょっ」
「寮長!」
 そこには、東寮長ランスが、相変わらずの仏頂面で立っていた。

「公共の場で騒ぐな。
 便所掃除をしたいなら勧めるが?」
 器用に片眉を上げて生徒たちを見回したランスは、彼らが何も言えずにいるのを見て鼻を鳴らした。

「クォーズ。
 食事が終ったら、本館の事務所に行くように。
 ヤーフェ講師がお呼びだ」
「……ヤーフェ、講師?」
「文学上級の先生だよ」
 ルフェランが言った。

「て、あれ?
 ヨウスが受けてるのって、初級だったよね?」
「う、うん」
 答えた瞬間、ざわりと周囲が動いた。

「それが、どうかしたのか?」
「どうってクォーズ!」
「飛び級だよ、飛び級!」
「え?」
「スッゲー!
 もう飛び級!?」
「えー、何?
 誰が飛び級だって!?」
「とび……?」

 次第に話は広がり、食堂中に広まった。
 騒ぎに気付いて戻って来る生徒までいる。

「マズイな」
「クォーズ、立てるか?」
 ルフェランの呟きにランスが反応し、ヨウスの腕を取る。
 いまいち状況を理解できないヨウスは、腕を引かれるまま立ち上がり、歩きだす。
 興奮する生徒たちの間を縫って食堂を出ると、ルフェランの後ろに隠れた。

 廊下の向こうから、生徒が走って来る。
「誰だよ上級行きは?!」
「飛び級だろ?」
「ティスのやつ、戻って来たのか?」

 生徒たちは、廊下に立ち尽くす三人に気付かないほど興奮しているようだ。
 よほど、その「飛び級」とやらは珍しいのだろうと、ヨウスは他人事のように思った。



「すまなかった。
 こんな騒ぎになるなんて……」
「気にするなよ、ランス。
 誰もここまでなるなんて思わなかったよ」

 ルフェランが歩きだしたので、ヨウスも張り付いたように着いて行く。
 その背を見上げながら尋ねてみる。
「飛び級って、何のこと?」
「あ、あぁ」
「階級繰り上がり制度」
 簡潔過ぎるランスの回答。

 苦笑いのルフェランが代わりに教えてくれた。
「最初から頭いい奴が、初級の試験待ってても時間のムダってことで、できた仕組みなんだ」