それから三人は、昼の授業を取りやめて、図書室内にある談話室に移動した。
 トルクの宿題を片付けようとしたのだが、なかなか進まない。

 試験が近いこともあって、トルクは焦っていた。
「ホラ、ここ前後がおかしいだろ?」
「えー!
 もういいじゃん!」
「もうっていうほど進んでもないだろ!」 ペチリと、ルフェラン先生の手がトルクの頭を叩く。

「また字が違う!」
「え~!」
「えーじゃない!」
「うー!」
「殴るぞ!」
「殴ってから言うなよ!」

 紙が勿体ないので黒板に下書きをしようとしたが、それすら終わらない。
 ヨウスも見兼ねて自分の黒板を貸したが、しばらく返ってきそうになかった。

 広くはない談話室に男三人。
 一人は怒られ一人は怒り。
 もう一人はそれを唖然と見ているしかない。
 ルフェランが嫌がったのも、頷ける光景だった。



「ヨウス、うるさいだろ?
 隣りに移ってもいいよ」
「あぁ、うん」
 ありがたくそうさせてもらうことにする。
 初めての試験が近いというのに、隣りで漫才をされたら集中できなかったから。



 トルクの嘆き声を背に、談話室を出る。
 途端、古い木と紙の匂いに包まれた。
 背の高い書棚が視界を覆い、整然と並べられた書物が待ち構えている。
 高所の窓から差し込む明かりは僅か。
 物々しささえ感じられた。

 やはり試験が近いせいか、いつもより人が多い。
 見知った顔もいくつかあった。
 真剣な眼差しに声はかけなかったが、向こうは気付いたようだ。

「……クォーズ?」
「進んでる?」
 彼は肩を竦めて見せた。
 確か、ラングという名前で、ティセットと同じ授業を受けていた。
「ぜんっぜん。
 算学はすらすらいったのになぁ」

 そういえば、とラングは周囲を見回す。
「あいつ、ルリと寄り戻したのか?」
「どうかな。
 ティスは何も言わなかったけど」
「ルリ、教養科いきだしたらしいぜ」
「教養科?」

「あいつ頭イイけど……」
 ラングは声をひそめる。
「料理は壊滅的」
「…………」
「ティスが死にかかっ、た……」

 言いかけて、ラングが硬直する。
 不思議に思ったヨウスが振り返ると、こめかみに青筋を立てたルリが立っていた。
 両手を腰に当た仁王立ちが似合うことこの上ない。

「あたしが、何かしら?」
 恐ろしい低音で周囲を凍りつかせたルリは、図書室内では騒げないと冷静に思ったらしく、ラングの襟元を掴んで歩き去った。
 ヨウスはただ、見送ってやることしかできなかった。
(壊滅的、ね……)



 しばらく本を探していると、足下でカサリと音がした。
 見てみると、何か紙切れを踏んでいた。
「あの、それ……」
 自分の足下から紙切れを取り上げ顔を上げたとき、少女に声をかけられた。

 視界の隅に映ったのは、白い制服。
 上等生だ。