上級生にして、一般の東寮に席を置くトルクは、家名で呼ばれるのを嫌がる。
 女生徒や教師たちは多めにみているようだが、東寮の男に呼ばれると黙っていられない。

 そのことはヨウスだって知っている。
 知っていて、寮長は使ったのだ。

「おまえ、ラン、スっ!?」
 寮長に掴みかかろうとしたトルクの腰に、ヨウスはおもわずしがみついた。
 予想もしていなかった衝撃にトルクはたたらを踏むが、体勢は崩れて倒れた。

「うあっ!」
 ガターンッ、と派手な音を立てて倒れるトルク。
 引きずられてヨウスも机に衝突した。

「トルクさん!」
「きゃあ!」
「な、なんだぁ!?」
「クォーズ!」
「何事だ!」
 教師の声が混ざる。

「退きなさい!
 何があったんだ!?」
 生徒たちをかき分けて走り寄った教師は、目の前の惨状に目を見張った。

 ヨウスが呻いて顔を上げる。
 高い悲鳴が教室中に響く。

「いっててぇ……」
 机にぶつけられて痛む肩を押さえながら、トルクが上体を起こす。
 それに合わせてヨウスも体を起こすが、片手はトルクの制服を掴んだままだ。

「ヨウス、だい、じ……」
 トルクの真ん丸な目が見開かれる。
「大丈夫」
「っ、バカ!」
 額を押さえながらヨウスが言えば、トルクの怒声が返って来る。

 トルクの制服を掴む手と反対の手は、額を押さえていた。
 机の上にあった黒板にでもぶつけたのだろう。
 押さえる指の隙間から、血が流れた。

「ヨウス、い、い」
 ヨウスの手に手を重ね、流血を止めようとするトルク。
「医務室だ」
「そうだ、医務室に行こう」

 うん、と頷いたヨウスだが、トルクの手を退けて周囲の人たちを見渡した。
 視線が合うたび、逸らされたり、呻かれたり。

 国王不在の件以外は平穏な国だ。
 血を見ることも少ないのだろう。
 二人、倒れた。



「……同室生は、教師方と寮長が決める」
 誰に、ではなく全員に聞こえるように言う。
「俺は指名する気はないし、勧められても決めたりはしない。
 それでも何か言いたければ……落ち着いて話そう」

 しん、と鎮まる教室。

 トルクの手を引いて、ヨウスは教室を後にした。



 ヨウスの傷は浅く、すぐに血は止まった。
 だが、頭部ともあって、用心のためにその日は安静を言い渡された。

 そして、騒ぎを起こしたということで指導室に呼ばれたトルクと寮長ランス。
 お説教をいただき、謹慎を告げられた。
 のだが。

「フェナッタ殿は、謹慎といえど寮室、授業を休まれても試験に差し支えるでしょう」
 ごもっとも。
「そこで……」