「あいつ、今年も寮長に選ばれてクサってるんだ」
 寮長になれば、講師の評判は良くなるし、時間や施設利用も優遇される。
 その分、学生同士の揉め事や苦情、相談に乗ったりと忙しない。

「頭イイのも苦労するなぁ」
 他人事のようにトルクがいうと、ルフェランはまなじりを吊り上げて睨みつけた。
「おまえはもう少し勉強しろっ」
「……!」
 未来の辺境伯は泣き顔になった。

「ヨウスまで笑うな!」
「え? あ、うん」
 緩んだ口元を隠すヨウス。
「おまえが悪いんだ」
 ルフェランはトルクの頭を叩いた。
「だからっ、ヨウス笑うな!」



 いつもと変わらない仲間たち。
 いつもより優しい寮生たち。
 いつもより多い朝食。

 いつも以上に、朝陽が眩しかった。


   *  *


 荷物をまとめるのに、そう時間は掛からなかった。
 寮室は二人部屋で広くないし、ティセットにはこれと言って趣味もないので、私物は少ない。

 数少ない本は、同じ授業に出ていた仲間に贈った。
「次、受かれよ」
 そいつは泣きそうなのぐっと堪えて頷いた。

 ほぼ衣類だけとなった荷物。
 一人ひとつ持って、七人。

 軽い箱を、大事そうに抱えてくれた。



 居候先の宿屋の裏手に周り、裏口の戸を叩く。
 すぐに奥さんがやって来て、学生集団に驚いた。

「お世話になります」
「いいのよぉ。
 屋根裏なんてホント物置で、悪いくらいだわー」

 ふっくらとした腹を押さえながら階段を登る宿の女将。
 もうすぐ子どもが生まれるのだ。

 三階に上る階段を上り終えるとすぐに扉で、鍵を使って中に入る。
「ティスが来るんだからって、おばあちゃんが片付けてくれたの」
「ありがとうございます」

 入って左側の大きな窓は荷物でほとんど隠れ、床の三分の二は荷物で埋まっていた。
 それでも屋根裏は意外と明るく、広かった。

 荷物で埋まった窓の対面にも窓があり、燦々と陽が射している。
 部屋の手前側の空間に寝台と戸棚が据えられている。
 大女将のおかげで、部屋らしい匂いがした。

「お、ティス、ほら!」
 一人が窓辺で手招きした。
「ニッチのお女将さんだ!」
 窓から顔を出すと、隣の家の二階からニッチの女将が手を振っているのが見えた。
「ティース!
 片付けたら、大根五本買って来とくれ!」
「…………」
 さっそく使われるようだ。
 背後で笑い声が上った。

「姉さんたら、せっかちだねー」
 宿屋の女将が窓から身を乗り出す。
「姉さん、急ぐんだったらあたしが行くよー?」
「バカ言うんじゃないよ!
 道端で産む気かい!?」