「一般人は上等生になれないのか?」
「難しいね」
 ヨウスの質問に答えたのはルフェランだった。
「よほどのお利口さんじゃないと、やっていけないよ」

「クラトは一般人だろ?」
 つい先ほどティセットの肩を叩いて行った学生を見て、トルク。
「姉貴がラーネット家の後家になったらしい。
 卵こぼれたよ」
「やべっ。
 あいつも頭いいしな」
「医者かなんか目指してなかったかな。
 服で手を拭くな」
「文官って感じじゃないのになぁ」

「…………」
 ルフェランは相変わらず、トルクのお母さん役をこなしていた。
 トルクが皇都に帰るとき、連れて行かれ兼ねない勢いだ。



「確かにこっちは少ないな」
 ぽつりと、トルクが言った。
「皇都じゃけっこういたけど……。
 やっぱり学費か?」
「それもあるけど、西寮は上下関係が厳しいらしいから。
 そんな感じしなかった?」
「うーんー。
 …………した」

 地方とはいえ、貴族であるはずのトルクが嫌悪した西寮生活。
 あまり想像したくない。

「なぁ、トルク。
 皇都は身分差とか厳しい?」
 卵を突つきながらティセットは尋ねた。
「まぁ、それなりにあるけど」
 大きなパンの塊をごくん、と飲み込むトルク。

「ヒドイやつはヒドイけど、同室生の勉強時間まで削ったりしなかったぜ」
「へー……」
 ということは、西寮では勉強時間さえ奪われることもあるということだ。
「成績落ちたら、そいつが疑われるからな」

 皇都の学寮では、同室生は必ず上下違えて選ばれる。
 下等生は同室生の生活の補佐をする。
 変わりに、上等生は下等生の勉強を見るのだそうだ。



「寮の出入りはここより厳しいけどな」
「皇族もいるからな。
 女帝とは会ったことないのか?」
「遠目にはな。
 陛下とオレは五歳くらい違うから、あんまりかぶらなかったな」

 いや、遠目とはいえ、帝国の花を直に見られるなんて羨ましい限りだ。

 ラディンネル国には王族がなく、自然、五大貴族が最高位となる。
 その子どもたちといえば……。
 まぁ、西寮の批評の種みたいなものだ。



 話している間にも、ティセットに声をかける学生は絶えない。
 ついでか、はたまた本命か、ヨウスも声をかけられる。
 次の同室生に注目が集まっているのだろう。
 遠くの席からも指を指されている。

「クォーズ、ちょっといいか?」
 そう言ったのは、寮長だった。
「食事が終ったら、指導室に来てくれ」
 ヨウスが了承すると、寮長は颯爽と去った。

「相変わらずしかめっ面だな」
「ランスは昔からだよ」
 ルフェランと幼馴染みの寮長。
 ティセットはまだ、一度も彼の笑い声を聞いたことがない。