もうひとつため息を付いたティセットが寝台から降りようとした時。
 いきなり扉が開いた。
「ティースっ!
 いつまで寝てんだ!」
 トルクだった。

「さっさと朝メシ食い、に…………」
 行こうぜ、と続けられなかった。
 真ん丸な目をティセットたちに注ぎ、硬直している。

 寝台は入って左右に二つある。
 なのに、二人でひとつしか使っていなければ、確かに変だ。
 初等部の子どもでもあるまいし。

「や、やったのか?」
 言うと思った。
「服着てるだろ」
 お馬鹿には枕を投げてやった。

 その後ろから「トルク邪魔」とルフェランも顔を出す。
「おはよー。
 固まってないで、メシ行こう、メシ」

 ルフェランはまだ昨晩の酒が残っているのか、顔色が冴えない。
 だが今日はティセットが学舎を去る日だ。
 無理をして来てくれたのだろう。

 ティセットはヨウスを起こし、顔を洗った。
 着替えている間に、急かされてヨウスが顔を洗う。
 相変わらず、朝は一段とぼんやりしたヨウス。
 明日から一人で大丈夫だろうか。



 食堂に着くと、あちこちから声をかけられた。
「よー、ティス。
 辞めるんだって?」
「さすがのおまえも、学費には敵わねぇな」

 初等部から短期間で中等部に上ったティセットは、当時それなりに目立った。
 一般人が入舎して中等部に上がるまでは、おおよそ三年から五年と言われていたからだ。

 おかげで、あちこちに顔を覚えられた。
 女生徒軍団に囲まれたことはないが……。

「ニッチの親父さんとこか?」
「またいくから、たまに奢ってくれよ」
「お、ティス、最後の朝メシか?」
「味わってけよ、ティス」
「毎日賄いかぁ……」
「親父さんの賄いのほうが旨いんだろ?」

 肩を、頭を、背中を。
 ぽんぽん、バシバシ、時にはグシャグシャにされていく。
 落ち着いて食べられない。

 でも、嬉しかった。



「ヨウス、止まってるよ」
 ルフェランがヨウスの肩を突く。
 ティセットが受ける、彼らなりの送迎を見て、ヨウスは匙を空に止めていた。

「零すなよ」
 ティセットも言ってやる。
 大丈夫だから、と。

 軽く頷いたヨウスは、匙を見て呟いた。
「好かれてるんだな」
「へ?」
「ティスは、みんなに好かれてるんだな」

 そりゃそうだ。
 胸を張って言ったのはルフェランだった。
「一般人から上等生が現われるかもって、期待してたからな、みんな」
「それは期待し過ぎだって」
 ティセットは首を振った。

 確かに、中等部に上った頃はそんな噂が流れていた。
 教師らから声をかけられることも度々あった。
 上級をひとつ取った時は、今のように叩かれ小突かれした。

 だがそれは、過剰な期待だった。
 結局ティセットは、道半ばで諦めるのだ。
 一般人学生の最大の敵、学費に討たれて。