果実水で口を改める。
 甘いはずなのに、ティセットは渋い顔をしていた。

「送って行くだろ?」
「んう?」
「彼女」
「…………」

 穏やかな寝息を立てるルリの手を、自分の袖からそっと離す。
 目尻に溜まった涙を指で掬うと、ティセットに睨まれた。

「送って行くよな?」
「……行く」
 これで二人の蟠りが解けるといい。



「さすがに、女の子に泣かれるのは慣れてるんだな?」
 ティセットの皮肉に苦笑して応える。
「…………。
 妹が、いたんだ」
 え、とティセットの声が裏返る。

 最初に両親がいないと告げたせいか、家族に関しての話題は少なかった。
 妹、と口にすること自体、久しぶりだ。

「ルリを見てて、思い出した」
 初めて聞いた、と呟いたティセットは、何かに気付いて顔を強張らせた。

 ヨウスは妹が「いた」と言った。
 もういない、と同じ意味にとらえたのだろう。

「生きてはいる」
「そっか」
 ティセットが安堵の表情を浮かべる。

「美人なんだろうなぁ。
 おまえに似てる?」
「たぶん」
「何だよ、たぶんって」
「一度しか会ったことがない」
「………………」

 少しだけ浮いていたのだろう。
 ティセットの手から器が落ちて、コトリ、と鳴った。

 調理場で店主夫婦が仲良く仕込みをしている。
 楽しげな声が微かにした。

「……えーっと……。
 どうして、って、訊いても大丈夫?」
「別々に育てられたんだ。
 俺は父方、妹は母方」

「り……離婚……てこと?」
「……いいや。
 結婚していなかった」
「…………………………」

「母方から縁を切られたとき。
 帰りしな、遠くから見送ってくれた」
「…………」
 訊かなきゃ良かった。
 ティセットの顔にそう書いてあった。

 二人して無言。
 ティセットの動揺が夜を深めた。


   *  *


 酔い潰れたルフェランとトルクは、ルフェランの家に連絡して引き取ってもらうことにした。
 その迎えが来るまでヨウスは残ると言い出す。

「気ぃ使ってるだろ?」
「とても」
「…………」
 ここは素直に感謝しておこう。



 ルリを背負って店を出る。
 酔ってもいないのに熱い頬が、夜風に冷やされる。

 背中に気をつけながら歩くのは大変だった。
 ティセットは頑丈なわけでもない。
 いつもはルフェランやトルクのおかげで小柄に見えるが、縦も横も平均的だ。

 女の子とはいえ、人一人を背負って学舎まで歩くのはキツい。
 だからといって、途中で降ろすわけにもいかなかった。

 もう、彼女に対して中途半端ではいたくない。