「ヨウス、忘れるなよ。
 ティスからすれば、おまえだって、恵まれているんだ」

 ヨウスは何も言わずルフェランの瞳を覗き込んだ。
 濃い青色が真剣な光を発している。

 ルフェランは恵まれている。
 それをしっかり受け止めている。



「……ごめん」
 ため息のような声。

 いいや、と首を振るルフェラン。
「ティスのおかげなんだ。
 自分は恵まれているって気付いたのは。
 だから、何かあれば力になりたい。
 僕自信は財産も権力もないけど、できるだけのことはしてやりたい」

 ルフェランは笑って、ヨウスの頭を撫でる。
「ヨウスも、力になってやってくれるか?」
「…………」
 ヨウスは頷いた。


   *  *


 ティセットは目を覚ました。
 朝日が眩しい。
 頭が痛い。
 そして、重い。

 目だけを動かして横を伺う。
「…………」
 美女なら良かったのに。
 残念ながら、ティセットの腹の上に重たい腕を乗せているのは、トルクだった。

 男四人で飲んだくれたのは覚えている。
 おそらくここは、ルフェランの家の客室だ。

 白っぽい壁紙。
 磨きこまれた箪笥。
 小さな机と対の椅子。
 寮より広く感じるのは、一人部屋だからかもしれない。

 変わっていない。
 去年も同じ様に泊めてもらったことがあり、覚えていた。
 トルクとまともに話せるようになったのはそれからだったと思う。

「うんっ……っしょ!」
 太い腕を退け、重い頭をゆっくりと持ち上げる。
 ちょうど扉が開いて、ルフェランが顔を出した。

「あぁ、起きたね」
「おはよー」
「おはよ。
 朝ご飯、食べれる?」
「うー……うーん」

 半分寝ぼけながら、水の張られた桶に顔を突っ込む。
 ブクブクと息が洩れる。
「おーい」
 ルフェランが引き上げてくれた。

「あー……ヨウスは?」
 渡された手拭いで顔を拭いたところで、一人足りないことに気付いた。

「司祭様の手伝いがあるって、昨晩戻ったよ」
「あー、帰ちゃったんだ。
 悪かったなー」
「何が?」

「せっかくの祭りで、あんな話して」
 あれか、とルフェラン。
 ティセットの肩を叩く。
「ヨウスはちょっとぼーっとしたとこがあるからな。
 ちょうど良かったと思うよ」

 二人はトルクを置いて部屋を出る。
 たぶん昼まで起きないだろうから。

「そういえば」
 食卓について、目の前に果物が乗ったとき。
 ティセットは思い出した。

「ヨウスって、ぼーっとしてるよな?」
 ティセットは話を蒸し返した。
「ヨウスに騎獣で送ってもらったって、話したことあったっけ?」
「あぁ、足ケガしたときね」

 朝から大量のパテスを完食したルフェランは、橙色の果物に手を出す。
 厚い皮を剥くと、薄皮に包まれた房が仲良く身を寄せあっていた。

「実はさ、途中で妊婦さん助けたんだ」
「ふあ?」
 薄皮ごと果物を咥えたルフェランを見て、ティセットはやっと果物に手を出す。
 食べ方がわからなかったのだ。