三人は沈黙した。
 それは数瞬のことで、重い空気をかち割るように机がドンッと音を立てた。
「はいよぉ!」
 威勢のいいお女将さんの声。
 適当に、と頼んだ料理が運ばれてきたのだ。

 おまけだよ、と店のお女将さんが串焼きを置いていく。
「いっぱい呑んできな!」
 ティセットの背中を叩いた大きな手がルフェランの頭を撫でていく。

 なぜかヨウスには、肩に手をおきにっこりと微笑むお女将さん。
「あと五年したらアタシんとこおいでよ」
「……」
 呆然としていたヨウスは、お女将さんの衝撃波に呻き声も上げることができなかった。



 三人の間で料理が湯気を上げている。

 ルフェランは静かだった。
 そうか、と呟く。

 なぜ、と尋ねたのは事情を知らないヨウスだった。
 酒で舌を痺れさせて、実は、とティセットは話し出す。

「最初におまえと会ったとき、伯父貴の見舞いに行った帰りだったんだ」
 うん、とヨウスは頷いた。
 ここまでは話したかもしれない。

「俺さ……半分家出するみたいにして、出て来たんだ。
 伯父貴に頼み込んで、学費出してもらってさ」
 なかなか手を付けてもらえない料理に、ティセットが自ら手を出す。

「その伯父貴が寝込んじゃってさ。
 学費を出してもらえなくなったんだ」
 ヨウスの顔が曇る。
 ティセットはその皿に、わざと大きな肉の塊を置いた。

 ルフェランが差し出した皿にニンジンを嫌がらせのように乗せる。
 案の定、ルフェランは渋い顔をした。
 オマケとばかりに、好物のパテスという麺を乗せてやる。
「…………」

「薬代もいるし、俺も少し金貯めてたから、もういいよって、言ったんだ。
 伯父貴も歳だからな……」
 それを聞いたときの伯父の顔を思い出して、ティセットは遠い目をした。

「で、一季がんばってみたけど……ムリかなぁ、と」
 くはぁ、とおどけてみせる。
 二人は笑ってくれなかった。



「……いつまで?」
「うーん、今季まで」
 ヨウスの顔は強張ったまま。
 呟くような声が落胆を表していた。

「その後はどうする?」
 ルフェランが尋ねる。
「ニッチの親父さんが遣ってくれるって」
「やっぱり、帰らないんだな」
 まぁね、とティセットは苦笑する。
 今さら帰るに帰れないのだ。

 故郷には姉と弟がいる。
 姉は嫁に行けただろうか。
 小さかった弟は、もう畑仕事を手伝っているだろう。
 ティセットのことは覚えているのかわからないが。

 父は元気にしているだろうか。
 伯父から母が倒れたと聞いたとき、帰らなかったことだけは後悔している。
 元気になって良かったが、合わせる顔がない。





 その後、少しずつペースを上げたティセットに釣られてルフェランがおかわりを連発。
 無表情だったヨウスも酔ったのか、相槌を打つたびに口元に笑みを浮かべた。

 ティセットはその時、「こいつってこんなふうに笑うんだな」と端整な顔を見つめた。
 同室生になって初めて、本当の笑みをみた気がする。

 そんなはずはないのに……。


   *  *