ティセットは不機嫌な顔で先頭を歩く。
 原因のヨウスにはその理由はわからないだろう。

 これはティセットが勝手に怒っているだけで、ヨウスには何の非もない。
 わかっている。
 が、それでも怒らずにはいられなかった。



 生暖かな風が甘い香りを運ぶ。

 クワイトル司祭の家を出て、城の北側の外堀に沿って進む。
 西区にあるルフェランの父親の店で帽子を買った。
 クワイトル司祭の気遣いに戸惑うヨウスに帽子を被せ、ついでにと三人も被った。
 出世払いだな、と父親に釘を刺されたルフェランを笑い、大通りを目指す。

 西区は住宅地まで花で埋め尽くされていた。
 通りに面した窓辺から鮮やかな刺繍布が垂らされ。
 家の足下にずらりと並んだ花壇。


 家の前で恋人を待つ少女たちの頬も赤く。
 急ぎ足で行き交う青年たちの、興奮した笑顔。

 子どもにを急かされて下衣を引っ張られる母親。
 兄弟だろうか、手を繋いで駆けて行く子どもたち。

 誰の顔にも朝日のようなキラキラした瞳が輝いていた。



 大通りは更なる装飾と人で溢れているのだろう。
 西区に慣れたルフェランが抜け道を探してくれるが、どこに行っても人だらけ。
 長身のトルクも、道の石畳が見えないと嘆いている。

「間に合うかなー」
「場所は取ってあるんだから、着きさえすれば、何とかなる、よ」
 いつの間にか怒りも忘れて進んでいた。
 そうでもしなければ、人波に飲み込まれそうだ。

 クスクス、と笑い声が通り過ぎた。
 自分たちのことだと、ティセットはすぐにわかった。
 迷子対策とはいえ、四人で手を繋いでいると目立つようだ。

「ラン。場所わかるだろ?」
「ニッチの親父さんところだろ?」
「二手に分かれよう。
 トルクと行ってくれ」
「わかった」

 やはり二人のほうが進みやすい。
 ルフェランたちと分かれて二十分ほどで、とある食堂に着いた。
「ここ、俺の仕事先」

 ヨウスを引きずるようにして店にはいる。
 店内では、すでに出来上がった男たちと女傑たちが椅子を取り合っていた。
 そのうちの一人がティセットを見つけた。

「ナニやってんだい、ティス!」
 見つからないうちに二階に上ろうとしたが、失敗した。
「トロっトロしてないで酒杯持って来な!
 今日はあたしがおごっ……て……………………。
 誰連れてんだい、ティス?」

 ティセットはゆっくりと振り返った。
「が、学舎の後輩だよ」
「だぁったら紹介しなよ。
 コソコソするこたぁないだろ」