「明日は祭りだってのに、精がでるねー」
 いつもより賑やかなのは当然だ。
 明日は祝祭日。
 長い寒気が終わり、暖かな季節の訪れを祝う、春来祭。

 すでに宿屋は満室。
 見晴らしの良い屋根の上も予約済みだ。
 西側の高級住宅地は馬車が行き交っているだろう。


「なぁジェイ。
 ちょっとでっかい仕事しないか?」
 大きな仕事と聞いて、興味のない彼。
 視線も上げずに、それでも律儀に「何?」と訊く。

「これさぁ、去年からの依頼なんだけど、だぁれも持ってかないんだよ」
「割に合わないからだろ?」
「いいやぁ、けっこういいぜ!」

 気になって見てみれば、調査とあった。
「寒気に調査は受けない」
 雪国の寒気に調査を依頼するほうががおかしい。
 もちろん、雪に埋もれて帰って来れないとわかっていて、受けるものもいないだろう。

「そうかぁ?」
「暖気になったから、今から来るんじゃないか?」
「そうかもなぁ」

「……これにする」
 彼に適当な仕事を見つけた。
 中身を見て、兵士が口を曲げる。

「まぁたこんなカンタンなやつかよ!」
 兵士の同僚たちが大きな声に笑いだす。
 彼が簡単な依頼しか選ばないのも、それに文句をいう兵士のふて腐れた声も、定番化しつつあった。

「長いこと空けられないんだ」
「何だよー、嫁さん……」
 馴染みの兵士は彼を指差して笑おうとしたが、やめて、あり得ないと首を振った。

「おまえの嫁さんなんて考えつかねー。
 もしいるとしたらな、すっげーブスか目無しだっ」
 そうに決まってる、そうだろ、なぁ。
 ……こうして彼の顔を羨んで詰るのも、毎回のことだった。

 彼は何も言わず、仏頂面の兵士から退治用の腕輪を受け取った。
「いつかはオレの給料に貢献しろよー?」
 彼はパタパタと手を振って東兼備所を後にした。



(祭か……)
 すれ違う多くの人たちの、嬉しそうな顔。
 つい、彼も口元に笑みを浮かべた。


   *  *


 めったに袖を通さない一張羅に着替えた。
 今日こそは髪もバッチリ決めよう。

 こんこん、と扉が鳴らされる。
「どーぞー」
 てっきりルフェランたちだと思ってそう言ったのだが、扉を開けて来たのは女の子だった。

 ティセットは動揺した。
 ここは男子寮なのに、なぜ女の子?
 しかも複数。

「えーっと……部屋、間違ってるよ」
「え!」
 女の子たちは驚いて、何やらコソコソと話し出す。

 今日は祭だ。
 おかげで明日まで授業もない。
 彼女たちも制服を着ていないし、ティセットと同じく服はお気に入りのものを着ているのだろう。
 うっすらと化粧をした頬が見える。



「違うって!?」
「ウソっ……がここだって……」
「えー!」
「……もう……どうすんの!」

 間違ったのはいいけど、早く出て行ってくれないかな、とティセットは思った。
 おそらく廊下側からは、ティセットの部屋に女子群が押し寄せているのが目立っているはず。

 作戦会議が終ったのか、女の子の一人がオズオズと話しかけてくる。
「あのー……こ、ここは、ク……クォーズ先輩の、お部屋ですか?」
「…………」