* *
―――どんな人?
ティセットからの問いに、昔の自分なら、何と答えていただろう?
今でも即答するのは難しい相手。
けれど、確実に印象は変わった。
自分の心を占める割合は増えた。
トルクがいうような恋人では、もちろんない。
親類でもない。
友人というには少し違うし、仲間という意識もない。
敢えて言うなら『仲間だった』。
でも、敵でもあった。
難しいところだ。
授業より難しいだろう。
しばらく手紙を書くことに集中していた。
ふと気付くと、後ろから寝息が聞こえた。
ロウソクの明かりの向きを変える。
そっと振り返る。
ティセットは俯せで寝ていた。
おそらく、ティセットと彼は同じ歳だろう。
諸事情で彼は歳を偽ったのだ。
歳の近い者とこんなに話すのは久しぶりだ。
すべてを話すことはできないし、今後も嘘を吐くかもしれない。
それでも、視線が届くだけの小さな世界は居心地も良さそうだ。
しばらくはこの顔が災いするだろう。
それは昔からだ。
これでも良くなったほうだ。
きっと、いい時間を過ごせる。
「……おやすみ、ティセット」
子どものような寝顔に向かって、小さく呟いた。
* *
朝はトルクと一緒に語学を二回。
昼の一回目はティセットと算学、二回目は一人で文学。
この繰り返しがしばらく続いた。
「ヨウスは頭良いんだな」
いつもの場所で昼食を食べているときだった。
ティセットはポツリと言った。
本館と東寮の間。
縦長の庭は、小・中等生の憩いの場だ。
上等生はおらず、陽射しが暖かい。
多少騒いでも、教師たちも見逃してくれる。
「そうか?」
答えながらヨウスが、昼食のパンに薄く焼いた肉と野菜を適当に挟んで、ティセットに渡す。
トルクはすでにかぶりついている。
ルフェランは両手で頭を抱えていた。
「俺より答えだすの早いよ。
黒板、ほとんど使ってないだろ?」
「あー……
たぶん、酒場で働いてたとき、身に着いたんじゃないかな」
教師は壁に取り付けられた大きな黒板を使う。
生徒にも、小さな黒板が与えられているが、書き写せる量に限りがある。
だから、書き写すのは新しい公式や例題だけで、問題は書いていない。
頭の中で済ませてるよ、とヨウス。
「……そうか。
頭の問題だ」
思い出したようにヨウスが言う。
「は?」
「トルクだよ」
「……オレ?」
「トルクは頭より、体で覚えるほうだろ?」
「そうかぁ?」
「トルクの頭と黒板と、何が関係するんだ?」
ティセットはパンを片手に、もう片方で教科書を広げる。
―――どんな人?
ティセットからの問いに、昔の自分なら、何と答えていただろう?
今でも即答するのは難しい相手。
けれど、確実に印象は変わった。
自分の心を占める割合は増えた。
トルクがいうような恋人では、もちろんない。
親類でもない。
友人というには少し違うし、仲間という意識もない。
敢えて言うなら『仲間だった』。
でも、敵でもあった。
難しいところだ。
授業より難しいだろう。
しばらく手紙を書くことに集中していた。
ふと気付くと、後ろから寝息が聞こえた。
ロウソクの明かりの向きを変える。
そっと振り返る。
ティセットは俯せで寝ていた。
おそらく、ティセットと彼は同じ歳だろう。
諸事情で彼は歳を偽ったのだ。
歳の近い者とこんなに話すのは久しぶりだ。
すべてを話すことはできないし、今後も嘘を吐くかもしれない。
それでも、視線が届くだけの小さな世界は居心地も良さそうだ。
しばらくはこの顔が災いするだろう。
それは昔からだ。
これでも良くなったほうだ。
きっと、いい時間を過ごせる。
「……おやすみ、ティセット」
子どものような寝顔に向かって、小さく呟いた。
* *
朝はトルクと一緒に語学を二回。
昼の一回目はティセットと算学、二回目は一人で文学。
この繰り返しがしばらく続いた。
「ヨウスは頭良いんだな」
いつもの場所で昼食を食べているときだった。
ティセットはポツリと言った。
本館と東寮の間。
縦長の庭は、小・中等生の憩いの場だ。
上等生はおらず、陽射しが暖かい。
多少騒いでも、教師たちも見逃してくれる。
「そうか?」
答えながらヨウスが、昼食のパンに薄く焼いた肉と野菜を適当に挟んで、ティセットに渡す。
トルクはすでにかぶりついている。
ルフェランは両手で頭を抱えていた。
「俺より答えだすの早いよ。
黒板、ほとんど使ってないだろ?」
「あー……
たぶん、酒場で働いてたとき、身に着いたんじゃないかな」
教師は壁に取り付けられた大きな黒板を使う。
生徒にも、小さな黒板が与えられているが、書き写せる量に限りがある。
だから、書き写すのは新しい公式や例題だけで、問題は書いていない。
頭の中で済ませてるよ、とヨウス。
「……そうか。
頭の問題だ」
思い出したようにヨウスが言う。
「は?」
「トルクだよ」
「……オレ?」
「トルクは頭より、体で覚えるほうだろ?」
「そうかぁ?」
「トルクの頭と黒板と、何が関係するんだ?」
ティセットはパンを片手に、もう片方で教科書を広げる。