東側に教会。
 北から西側にかけては貴族らの屋敷が建ち並ぶ。

 そのほぼ中央。
 聖学舎―――と呼ばれる大きな施設がある。

 もとは僧侶たちのために造られたものだ。
 それが、商人たちが我が子を通わせるようになり、手狭になって増築された。
 さらに戦争孤児を引き取ったため、増築を繰り返し、皇都の学舎を追い抜くほどになった。

 僧侶見習いを勤めるものには無償だが、その他は貴族子弟、一般市民に関係なく学費がかかる。

 貴族子弟はともかく、自分で稼いだり、あるいは勤め先の支援で学費は払われる。
 少数だが、後見人が一切の面倒を見てくれる場合もある。



 だから良いですか、と女講師が目を光らせた。
「あなたがここで学ぶことができるのは、クワイトル司祭様のお慈悲のおかげ。
 日々感謝しながら学ぶことです」

 そう。
 学費だ。
 気軽に勧められものだから、てっきり無償だと思っていた。
 甘かった。

 これだけの大規模施設を維持するのに、無償でいいなんてあり得ないのだ。



 必要だと知らされたのはつい先ほどのことで、二度驚いた。
 しかも老司祭がすでに手配してくれていたと知ると、謀られた気がしてならない。
 金額によっては返したいが。
(けっこうするんだろうな……)

 ちょっと嫌になった。



「何か?」
「いいえ、何でもありません」
「では、次に学科を説明します」
 女講師の話はそれから、うんざりするほど長く続いた。





 分厚い本がバタンと閉じられた。
「以上で、説明を終ります」
 本当に終ったのかと疑いたくなるくらい長い話が締めくくられた。

「最後に。
 何か質問はありますか?」
 正直、今は無い。
 説明されたことが頭の中からこぼれないように一所懸命だ。

 だいたい、自分に「寂しくなったときの代理親」の説明が必要だろうか?
 そんな歳でもない。
 端よってほしかった。

 それでも彼は手を上げた。
「質問です」
「どうぞ」
「あとでわからないことが出てきたら伺いたいので、名前を教えてください」

 彼女は満足げに頷いた。
「講師のリトリスです。
 あなたがたの学生生活を補佐いたします」
「ありがとうございます、リトリス講師」

「では、あなたの部屋へ案内しましょう」


 本館の東側に一般寮がある。
 西側は貴族子弟のための寮があるらしいが。

「筆頭侯爵のご令息もいらっしゃいます。
 特別なことがないかぎり、本館から西へは立ち入りを禁じます」
 必要もないだろうと、彼は聞き流す。

「さぁ、ここです」
 扉を叩いて、女講師が中へ誘う。
「ティセット。
 今日から彼が、あなたの同室生です」
 一番角の机に座っていた横顔が振り向く。

「あ」
 驚きの声が同時に上がった。