応接室と思われる部屋は質素で、聖職者の肩書きに頷けるものだった。
 実際、個人宅なら良いだろうと華美な屋敷を持つ者もいる。
 これだけ型に嵌まった人物のほうが珍しいくらいだ。

 長年使われて焼き菓子色に艶めく机。
 上に乗るのも同じ色の菓子。

 老司祭は、菓子を青年に勧めた。
 まだ彼が昔のままのように思えたから、つい、施設の子どもたちと同じ様に接してしまう。

「……あの時いただいたのも、これでした」
 青年は懐かしむようにつぶやく。
 小さく焼上げられ、蜜をかけられた甘菓子。
 一つ口にして、甘さを楽しむ。

「あの時は断られましたので、ロデス様にお渡ししましたな」
「あとで無理矢理、食べさせられました」
 おや、と老司祭は目を丸くする。
「さすがに、ロデス様には敵いませんでしたか」
 二人して笑った。



「いかがですか、見聞の旅は?」
「自分は世間知らずだと思いました。
 思った以上に、世界は広い」
「大陸はすべて行かれましたか?」
 青年は苦笑した。
「まだ周りきれていません」

 老司祭の求めるまま、青年は旅の話をした。
 口下手なりに、老司祭を驚かせ、感心させた。



 日暮れに気付いたのは青年だった。
 高い位置にある窓の向こうが、いつの間にか茜色に染まっていた。

「長くお引き止めしてしまいましたな」
「いいえ。
 兼備所には明日も行けますから」
「傭兵を……?」
 はい、と頷く青年。

 これまで彼は、路銀はほとんど傭兵として稼いだ。
 護衛など時間のかかるものは避け、安いが短期で済む退治ばかりを選んだ。
 贅沢をしなければ充分な額だった。



 ふむ、と老司祭は頷いた。
「もし、お急ぎのご用がなければ、学舎にいかれてはみませんか?」
「学舎……ですか?」

 街の東側は教会、北から西側は貴族の屋敷が占めている。
 その東西のほぼ中央に学舎がある。
 一般市民から貴族子弟までが通う、大規模なものだ。

「これから徐々に暖かなります。
 過ごしやすくなるでしょう。
 暖季の間だけでも、停どまってはいただけませんか?」
「俺には戸籍がありません」
「よろしければ、わたしが後見にお付きします」

 熱心に勧められ、青年は不思議そうな顔をする。
 老司祭は観念して、本音を言う。
「また、旅の話をお聞きしたいのです」
 子どものようなことを言われて、青年は苦笑した。

 大陸北部の人々は、寒季は雪に閉じ込められる。
 屋内だけではいつか飽きが来る。
 だから、遠くから来た旅人を引き止め、集まって話に耳を傾けるのだ。

 老司祭も例に洩れず、退屈をすることもあるらしい。

「学舎に行くのは、仕事をしながらでも可能ですか?」
 老司祭は大きく頷いた。