聖女の騎士が天幕から出たのはそれから七日後のことだった。
「クラウス殿。
もう良いのですか?」
「モーガン将軍」
聞きつけて急いでいくと、聖女の騎士は前より白い顔をしていながらもしっかりと立っていた。
神とシルヴィアに感謝した。
「ご心配をおかけしました」
「いや、こちらこそ、聖女どのを守るのに手一杯で」
モーガン自身は左肩に少し傷を負ったくらいで、先日から習慣の素振りを開始していた。
聖女に傷ひとつなかったとはいえその騎士を重傷人にしてしまったのだ。
ここ数日は緊張に張り詰めていた。
「いいえ。
やはりお礼を言うのはこちらです。
姫をお守りくださり、感謝いたします」
聖女の騎士と呼ばれ持て囃されているが、この青年はいつでも礼儀正しい。
どこかの青年に見習わせたいとモーガン将軍は思っている。
「次の使者にはクラウス殿が赴かれるのでしたな」
「はい。
軍の第二位同士の対面ということなので」
聖女の騎士は恐縮して言った。
「本来ならば、将軍かローイング卿が適任なのですが……」
「いやいや。
常に大将のそばに控えるものこそ適任です。
クラウス殿以外おりません。
陣営のことは我々にお任せください」
「ありがとうございます」
若々しく精気に満ちた笑顔だった。
エメール男爵家では唯一の武官だが、彼は選択を誤ってはいないようだ。
文官などに収まる青年ではないし、第一もったいない。
剣術はまだ上達の可能性もあり、なにより聖女が大きな信頼を……いや、好意を寄せている。
「つかぬ事をお聞きしますが……」
「何か?」
「将軍は、いつまでお独り身なのですか?」
意表をつかれ、さすがの勇将も唸ざるをえなかった。
幼い聖女を主家に渡した後、そうそうに遠い地に追いやられ、女性との縁がなかったのは確か。
だが辺境に飛ばされ男所帯だったからというのは、大した言い訳にはならなかった。
将軍職に就いて一体、いくつの見合いを勧められたことか。
だが、それ以上に。
美しい女性の絵姿を見て感心したことはあるが、今は亡き主を超えることはなかった。
亡き主は美しい栗毛に黒々とした瞳、色気のない白い肌は真夏の雲のようだった。
微笑むとふんわりと花が咲いたような気がしたものだ。
「む……ん。
これは参りましたな」
モーガンは頭をかいた。
「いえ、実は、初恋の君に手ひどく振られましてな。
いまだ傷心中の身なのですよ。
この齢になりますと、身を固めるのも難しくてですな……」
なんてありきたりないい訳だろうか。
自分の口下手さに嫌気が差した。
きゃはは、と幼い笑い声がした。
モーガンは周囲を見回し子どもの姿が見えないのを確認すると、それが幻聴だと知った。
いや、古い記憶が蘇えったのだ。
主の子を恐る恐る抱き上げた従士の必死な顔を見て、今にも咲き零れるような笑顔を見せた、青眼の赤子が。
「今はもう、彼女のお子の結婚に期待しております」
「クラウス殿。
もう良いのですか?」
「モーガン将軍」
聞きつけて急いでいくと、聖女の騎士は前より白い顔をしていながらもしっかりと立っていた。
神とシルヴィアに感謝した。
「ご心配をおかけしました」
「いや、こちらこそ、聖女どのを守るのに手一杯で」
モーガン自身は左肩に少し傷を負ったくらいで、先日から習慣の素振りを開始していた。
聖女に傷ひとつなかったとはいえその騎士を重傷人にしてしまったのだ。
ここ数日は緊張に張り詰めていた。
「いいえ。
やはりお礼を言うのはこちらです。
姫をお守りくださり、感謝いたします」
聖女の騎士と呼ばれ持て囃されているが、この青年はいつでも礼儀正しい。
どこかの青年に見習わせたいとモーガン将軍は思っている。
「次の使者にはクラウス殿が赴かれるのでしたな」
「はい。
軍の第二位同士の対面ということなので」
聖女の騎士は恐縮して言った。
「本来ならば、将軍かローイング卿が適任なのですが……」
「いやいや。
常に大将のそばに控えるものこそ適任です。
クラウス殿以外おりません。
陣営のことは我々にお任せください」
「ありがとうございます」
若々しく精気に満ちた笑顔だった。
エメール男爵家では唯一の武官だが、彼は選択を誤ってはいないようだ。
文官などに収まる青年ではないし、第一もったいない。
剣術はまだ上達の可能性もあり、なにより聖女が大きな信頼を……いや、好意を寄せている。
「つかぬ事をお聞きしますが……」
「何か?」
「将軍は、いつまでお独り身なのですか?」
意表をつかれ、さすがの勇将も唸ざるをえなかった。
幼い聖女を主家に渡した後、そうそうに遠い地に追いやられ、女性との縁がなかったのは確か。
だが辺境に飛ばされ男所帯だったからというのは、大した言い訳にはならなかった。
将軍職に就いて一体、いくつの見合いを勧められたことか。
だが、それ以上に。
美しい女性の絵姿を見て感心したことはあるが、今は亡き主を超えることはなかった。
亡き主は美しい栗毛に黒々とした瞳、色気のない白い肌は真夏の雲のようだった。
微笑むとふんわりと花が咲いたような気がしたものだ。
「む……ん。
これは参りましたな」
モーガンは頭をかいた。
「いえ、実は、初恋の君に手ひどく振られましてな。
いまだ傷心中の身なのですよ。
この齢になりますと、身を固めるのも難しくてですな……」
なんてありきたりないい訳だろうか。
自分の口下手さに嫌気が差した。
きゃはは、と幼い笑い声がした。
モーガンは周囲を見回し子どもの姿が見えないのを確認すると、それが幻聴だと知った。
いや、古い記憶が蘇えったのだ。
主の子を恐る恐る抱き上げた従士の必死な顔を見て、今にも咲き零れるような笑顔を見せた、青眼の赤子が。
「今はもう、彼女のお子の結婚に期待しております」