五日後、驚くほどの回復力を見せ、クラウスは立ち上がった。
「うん、いいみたいね。
でもまだ無理はしないで。
体の中もちょっと傷がついていたから、また開いちゃうかも」
「あぁ。礼を言う」
「どういたしまして」
シルヴィアという少女はとても小柄で、クラウスの胸まで背がない。
腹のあたりでふわふわとした髪がなびいている。
人は見かけによらないというが、医者も驚くほど薬の知識に長け、クラウスの快復に貢献してくれた。
友人との再会に喜ぶマリーナの笑顔も輝かんばかりで、クラウスには少々妬けた。
「フォスターは今日には戻るのよね」
「ただいま」
「ひっ……!」
少女の背後からのっそりとフォスターが現れた。
「もう、フォスター! 急に現れないで! びっくりしたわ」
台詞を取られたクラウスは非難の眼差しを送るだけにした。
まだ一応、養生中だ。
「ごめん。
クラウス、どうだ?」
「は?」
大きな態度と無礼な口調で有名な青年軍師の謝罪の言葉に驚き、クラウスは呆然とした。
聞き違いだろうかと自分の頬をつねってみる。
……痛い。
本当だった。
「ヴィア、あいつ頭打ってたっけ?」
「うぅん。
そんなはずないんだけど……」
二人に訝しげな顔をされ、クラウスは我に返った。
「向こうはどうだった?」
「帰りしな、早めに席を持ちたいと伝言があった。
こちら側からはおまえを代表に出したいんだけど……」
「わかっている。
その心積もりはしておいた」
「容態は?」
「うー……ん。そうね。
表を歩いてもいいけど、乗馬の振動はまだよくないわ」
馬に乗れないからといって相乗りしていくのも体面が悪い。
騎士であるなら馬車もいけない。
「予定通り二十日後でなければ席は持たないと言うか。
どうせ答えは一緒だ。
あと十日あればどうだ、ヴィア?」
「そうね。
歩かせるくらいならいいわ」
医師殿の許可を貰い、クラウスは七日ぶりに天幕を出て表を歩いた。
すぐに仲間の騎士が集まり、見舞いの言葉を貰う。
散歩ついでに陣営を見回すと、兵士や民兵もクラウスの姿に安堵の笑みを浮かべた。
「クラウス殿、もう良いのですか?」
「モーガン将軍」
表に出たクラウスのことを聞きつけたのか、軽く息を弾ませてやってきた。
クラウスよりも頭ひとつ高い。
「ご心配をおかけしました」
「いや、こちらこそ、聖女どのを守るのに手一杯で」
「いいえ。
やはりお礼を言うのはこちらです。
姫をお守りくださり、感謝します」
クラウスが寝込んでいる間、盗賊の頭によって将軍は無実の裏づけがされた。
詳細までは聞かなかったが、あの場面を見てはもう疑う気はない。
「次の使者にはクラウス殿が赴かれるのでしたな」
二人で並んで歩きながらモーガン将軍が尋ねた。
「はい。軍の第二位同士の対面ということなので。
本来ならば、将軍かローイング卿が適任なのですが……」
まさか、と勇将が笑う。
「常に大将のそばに控える者こそ適任です。
クラウス殿以外におりません。
陣営のことは我々にお任せください」
「ありがとうございます」
そういえば、とクラウスは思った。
「つかぬことをお聞きしますが……」
「何か?」
「将軍はいつまでお独り身なのですか?」
四十歳近いはずのモーガン将軍はまだ独り身だ。
武のロイズ家を主家とする将軍ならば花嫁候補は山といただろうに。
「む……ん。
これは参りましたな」
勇将は頭をかいた。
「いえ、実は、初恋の君に手ひどく振られましてな。
いまだ傷心中の身なのですよ。
この齢になりますと、身を固めるのも難しくてですな。
……今はもう、彼女のお子の結婚に期待しております」
遠い目をする勇将の脳裏には何が映っているのだろう。
その視線の先に目を向けたとき、クラウスの視界には、駆けてくる愛しい主の姿があった。