男は静かな町並みを見下ろしていた。

 町外れの低木を生やした貧相な小山。
 婦人のドレスの裾のようにゆるやかな傾斜を広げ、いくつもの丘を作っていた。
 男はそのうちのひとつに立っていた。

 朝一番の市場がひらけていくようすが遠くに見れる。
 黒い種のような人々が広場から散っていく。

 表情までは見えないが、どの黒い種も活発に動いている。
 初めてみるその光景に、男は見入っていた。

 商人の朝は早いと知っていたが、それに興味を抱いて早起きをするほど酔狂ではない。
 まして、供の一人も連れずに人気のない山に登るなど初めてだ。

 それもしかたがなかった。
 連れて行けるような従者がいないのだ。

 現実に戻って、男は苦いため息をつく。
 足元の小さな荷物を手にして、町に背を向けた。