呆然とするイルスを横目に、主とレセリアナの婚約は広まり、サース国の使者を引き連れてイルスが帰還したときにはすでに皇都はお祭り状態だった。
「貴国は賑やかですなぁ」
サース国の使者は喜んでくれたようなので、イルスは訂正しないでおいた。
皇帝の婚儀など、どれだけ振りだろうか。
先代女皇は幼くもあり、あまりに短い在位のために婚約者すらいなかった。だから誰もが資料と睨めっこで正典をやり抜こうと殺気立った。
やっと主のお好みの女性が見つかったのだと宰相は小躍りし、娘や姪を帝妃にと企んでいた大臣たちは髪をかきむしり、ハゲた人が増えた。
また、イルスの婚約が正式に公表されてからというもの、あちこちで婚約話が飛び交ったようだ。それまで待ちに待たせられた男性人は、大敵が一人減ったために叶った婚姻に複雑な気分のようだ。
城下町でも恋の話が流行りだしたようで、恋愛物の書物が多く出版された。
お披露目式の翌日には婚儀という目まぐるしい予定で、誰もが踊るように宮廷を駆け巡る。
イルスも宰相からの指示と、部下からの報告と要望に駆けずり回った。さらに神官長の務めがあるため、休む間もない。
それでもなんとか小休止を取って椅子に座ってぐったりしていると、それを見かけた侍女が真っ赤な顔で逃げていった。
……何をしたというのだろう。傷ついた。
と思ったら、諦めきれない貴婦人たちが介抱と言い訳をつけて押しかけてきたので、慌てて執務室に篭もった。
……休めない。
溜め息をついて椅子に腰掛けたイルスは、窓を叩く音を聞いた。
振り返ったその先に、目の覚めるような笑顔があった。
「……フィー、どの?」
「こんばんは閣下。おめでたい話を聞きつけて来ました」
来るのは構わないが、どうして窓からなのだろう。
「僕にもお祝いさせてください」
祭りが始まる。
神官長であるイルスが最初の祝辞を述べると、宮廷の露台を見上げるすべての民が大声で歓声を上げた。
一日の禊ぎ。二日目の祓い。三日目の戒め……そして四日目に二人は婚儀で顔を合わせる。
大神殿の大広間を埋め尽くす人々。その中央をゆっくりと歩く二人。
青いヴェールの向こうのレセリアナの表情は見えない。それでも彼女の軽い足取りと、サース国から来た彼女の叔父の緊張した表情が現実的で、微笑ましい。
彼女の叔父はぎこちない動きで彼女の手を主に渡す。
主は頭を垂れる妻となる人のひたいに軽く錫上を当て、その手に錫上を渡す。その主の腰には、あの聖剣がある。
大ぶりの剣は長身の主の姿にぴったりと収まっていた。
二人は並んでイルスの前に跪く。
イルスは祝辞を述べ、戒めを説き、誓いの言葉を結ぶ。主の声は震えていて、レセリアナの声はいつもより高い。
そしてイルスは、祝福の使者を呼んだ。
「若き二人のために……」
イルスの視線を追った主の目が大きくなる。
「……フィー殿」
やはり、わかるようだ。法衣で顔を隠しているのに、主は知人を見抜いてしまった。
「貴国は賑やかですなぁ」
サース国の使者は喜んでくれたようなので、イルスは訂正しないでおいた。
皇帝の婚儀など、どれだけ振りだろうか。
先代女皇は幼くもあり、あまりに短い在位のために婚約者すらいなかった。だから誰もが資料と睨めっこで正典をやり抜こうと殺気立った。
やっと主のお好みの女性が見つかったのだと宰相は小躍りし、娘や姪を帝妃にと企んでいた大臣たちは髪をかきむしり、ハゲた人が増えた。
また、イルスの婚約が正式に公表されてからというもの、あちこちで婚約話が飛び交ったようだ。それまで待ちに待たせられた男性人は、大敵が一人減ったために叶った婚姻に複雑な気分のようだ。
城下町でも恋の話が流行りだしたようで、恋愛物の書物が多く出版された。
お披露目式の翌日には婚儀という目まぐるしい予定で、誰もが踊るように宮廷を駆け巡る。
イルスも宰相からの指示と、部下からの報告と要望に駆けずり回った。さらに神官長の務めがあるため、休む間もない。
それでもなんとか小休止を取って椅子に座ってぐったりしていると、それを見かけた侍女が真っ赤な顔で逃げていった。
……何をしたというのだろう。傷ついた。
と思ったら、諦めきれない貴婦人たちが介抱と言い訳をつけて押しかけてきたので、慌てて執務室に篭もった。
……休めない。
溜め息をついて椅子に腰掛けたイルスは、窓を叩く音を聞いた。
振り返ったその先に、目の覚めるような笑顔があった。
「……フィー、どの?」
「こんばんは閣下。おめでたい話を聞きつけて来ました」
来るのは構わないが、どうして窓からなのだろう。
「僕にもお祝いさせてください」
祭りが始まる。
神官長であるイルスが最初の祝辞を述べると、宮廷の露台を見上げるすべての民が大声で歓声を上げた。
一日の禊ぎ。二日目の祓い。三日目の戒め……そして四日目に二人は婚儀で顔を合わせる。
大神殿の大広間を埋め尽くす人々。その中央をゆっくりと歩く二人。
青いヴェールの向こうのレセリアナの表情は見えない。それでも彼女の軽い足取りと、サース国から来た彼女の叔父の緊張した表情が現実的で、微笑ましい。
彼女の叔父はぎこちない動きで彼女の手を主に渡す。
主は頭を垂れる妻となる人のひたいに軽く錫上を当て、その手に錫上を渡す。その主の腰には、あの聖剣がある。
大ぶりの剣は長身の主の姿にぴったりと収まっていた。
二人は並んでイルスの前に跪く。
イルスは祝辞を述べ、戒めを説き、誓いの言葉を結ぶ。主の声は震えていて、レセリアナの声はいつもより高い。
そしてイルスは、祝福の使者を呼んだ。
「若き二人のために……」
イルスの視線を追った主の目が大きくなる。
「……フィー殿」
やはり、わかるようだ。法衣で顔を隠しているのに、主は知人を見抜いてしまった。