「良いのですか?」
「何が?」
「イエラ様は……このままです。
閣下とお年を取ることもなく、バラが咲きつづける限りこの地上に残ります」
「あら、レセ様。この人が亡くなったら、あたくし全力で枯れて見せますわ」
婚約者があまりにもあっけらかんと言うのでイルスは呆れた。
「陛下のバラだぞ」
「でも今はあなたのために咲いているのよ。あなたが死んだら咲く意味がないわ」
レセリアナが笑った。
久しぶりに会うレセリアナは急に大人びたようだ。
そして彼女もイルスに謝罪した。
レセリアナには銀の聖女の血が濃く出ている。イルスの婚約者が通常の生身ではないと、なんとなく気づいていたようだ。それでも本人が口にしないので、その話題には触れなかったという。
スティードが茶菓子を持って来る。
「でも俺はね、一番不思議なのはあのご老体だと思いますよ。
魂だけを見て、その器を作って、生身を維持させるんですよ。よほどの魔導士じゃないですって」
青ざめた顔で振るえるスティード。
レセリアナの話では、隣国に仕える魔導士にいたずらを見つけられ、折檻を受けた経験があるらしい。自業自得だ。
「ドナナ様はすばらしい魔導士よ。干乾びてるけど、木の妖精よりすごいわ」
「引退した魔導士は人里を離れるといいますが、ドナナ様は本当に、閣下思いなんですね」
「引退したなんてウソだ! 裏で絶対なにか企んでますよ」
「あら、企みは女の仕事よ。ドナナ様は毎日寝ていらっしゃるだけだわ」
「夢の中で何してるかわかりませんよ!」
「夢は夢よ。
やあねスティード。鳥肌が立ってるわ」
「いつまで経っても慣れないんだから……」
「慣れるもんか!!」
夕暮れの涼しい庭。
池の上に張り出す東屋。
友人たちと婚約者と交わす他愛無い話。
いつまでも。
いつまでも。
望む限りの時間。
こうしていたいと、イルスは願った。
主の言葉は唐突だった。
「婚儀を挙げる」
宰相以下、イルスたちは目を点にした。
「は?」
「最速でいつだ?」
「え……あ、はい」
イルスは予定表をめくる。
「陛下のご婚儀ですと、一週間は祭りが必要です。その準備と、お客様への招待状を作成し、一定期間のお返事を待つ時間が必要となりますので……せめて三月後に」
「まっ! 待ちなさいイルス補佐!」
宰相が復活した。
「せっ……陛下、せ、せめて来年までお待ちください。お披露目がお済みでありません」
「お披露目? ……必要か?」
「お、お、お恐れ多くも、聖皇帝陛下。
レセリアナ様は王妹殿下にあらせられます。兄君にご報告もなく、許しもなく婚儀は挙げられませぬ!」
「…………。そうか」
主の視線がイルスを向く。
「イルス。サース国王への使者を任せる。
長旅は寂しかろう。婚約者も連れて行け」
「………………は……はい」
手早くしたためられた書状を手にしてイルスは家に戻り、婚約者にことの次第を話し、やっと事態が飲み込めた。
「陛下がご結婚!?」
「パーシィク。あなた何いまさら驚いてるの。
ほら、旅の支度をしましょ」
婚約者は早速、大きなかばんを用意させた。……旅行じゃないんだけど。
「何が?」
「イエラ様は……このままです。
閣下とお年を取ることもなく、バラが咲きつづける限りこの地上に残ります」
「あら、レセ様。この人が亡くなったら、あたくし全力で枯れて見せますわ」
婚約者があまりにもあっけらかんと言うのでイルスは呆れた。
「陛下のバラだぞ」
「でも今はあなたのために咲いているのよ。あなたが死んだら咲く意味がないわ」
レセリアナが笑った。
久しぶりに会うレセリアナは急に大人びたようだ。
そして彼女もイルスに謝罪した。
レセリアナには銀の聖女の血が濃く出ている。イルスの婚約者が通常の生身ではないと、なんとなく気づいていたようだ。それでも本人が口にしないので、その話題には触れなかったという。
スティードが茶菓子を持って来る。
「でも俺はね、一番不思議なのはあのご老体だと思いますよ。
魂だけを見て、その器を作って、生身を維持させるんですよ。よほどの魔導士じゃないですって」
青ざめた顔で振るえるスティード。
レセリアナの話では、隣国に仕える魔導士にいたずらを見つけられ、折檻を受けた経験があるらしい。自業自得だ。
「ドナナ様はすばらしい魔導士よ。干乾びてるけど、木の妖精よりすごいわ」
「引退した魔導士は人里を離れるといいますが、ドナナ様は本当に、閣下思いなんですね」
「引退したなんてウソだ! 裏で絶対なにか企んでますよ」
「あら、企みは女の仕事よ。ドナナ様は毎日寝ていらっしゃるだけだわ」
「夢の中で何してるかわかりませんよ!」
「夢は夢よ。
やあねスティード。鳥肌が立ってるわ」
「いつまで経っても慣れないんだから……」
「慣れるもんか!!」
夕暮れの涼しい庭。
池の上に張り出す東屋。
友人たちと婚約者と交わす他愛無い話。
いつまでも。
いつまでも。
望む限りの時間。
こうしていたいと、イルスは願った。
主の言葉は唐突だった。
「婚儀を挙げる」
宰相以下、イルスたちは目を点にした。
「は?」
「最速でいつだ?」
「え……あ、はい」
イルスは予定表をめくる。
「陛下のご婚儀ですと、一週間は祭りが必要です。その準備と、お客様への招待状を作成し、一定期間のお返事を待つ時間が必要となりますので……せめて三月後に」
「まっ! 待ちなさいイルス補佐!」
宰相が復活した。
「せっ……陛下、せ、せめて来年までお待ちください。お披露目がお済みでありません」
「お披露目? ……必要か?」
「お、お、お恐れ多くも、聖皇帝陛下。
レセリアナ様は王妹殿下にあらせられます。兄君にご報告もなく、許しもなく婚儀は挙げられませぬ!」
「…………。そうか」
主の視線がイルスを向く。
「イルス。サース国王への使者を任せる。
長旅は寂しかろう。婚約者も連れて行け」
「………………は……はい」
手早くしたためられた書状を手にしてイルスは家に戻り、婚約者にことの次第を話し、やっと事態が飲み込めた。
「陛下がご結婚!?」
「パーシィク。あなた何いまさら驚いてるの。
ほら、旅の支度をしましょ」
婚約者は早速、大きなかばんを用意させた。……旅行じゃないんだけど。