風の強い日が続いた。
行くときは半月という最速記録をだせたが、帰りまではそうは行かなかった。通常より遅く、ひと月と半かかった。
いったん、イルスの屋敷で衣服を改めることにした。
何せひと月だ。砂がこびり付いて髪が真っ白になっている。
レセリアナの帰還に喜ぶ婚約者は、嬉々として彼女の世話に取り掛かった。
「これからが勝負ですわ、レセリアナ様!」
彼女は常に楽しそうだ。自分の想定どおりにことが運んで嬉しいのだろう。
二ヶ月近く公務を放り出していたイルスだが、年に数度、〈水守〉の里に行くので誰も不思議に思わなかった。
ただその隣に銀髪の少女を連れていることに誰もが驚いた。他国からの留学生が出入りする宮廷だが、それでも銀色の髪は珍しい。
イルスを信奉(というらしい)している貴婦人一行がハンカチを噛んでいる。どんなに美しく(というらしい)着飾っても、さすがに髪を銀色に染める手法はないようだ。
主の執務室は相変わらず混雑していた。
扉は開けられたまま、書類を持った大臣、書記官たちがずらりと外まで並んでいる。
執務室へは一人ずつ入るが、控え室はとぐろを巻くように人がいる。それが今日ははみ出したようだ。
控え室に現れたイルスたちの姿に、誰もが息を飲んで道を開けた。
「みなさん、申し訳ない。先に失礼する」
一言言い置いて、イルスは執務室に入った。
大臣も書記官もいなかった。先ほど持ち込まれた書類の吟味をしていたようだ。
主はイルスの姿を見て表情をかすかに緩めた。
おそらく労いの言葉を言おうとしたのだろう。
唇が震えて止まった。
「…………イル、ス……?」
それだけ言うのが精一杯のようだ。
「勝手にも長らく留守をいたしましたこと、お詫び申し上げます。
お詫びといっては不敬にもあたりますが、土産を持参いたしました」
イルスは背後のレセリアナを前に出した。
イルスは呆然とする主と緊張して固まったレセリアナを残し、宰相と書記官と護衛たちを執務室から追い出した。
控え室の扉を閉め、そのまえに陣取る。
「イ、イ、イルス、補佐? こ、こここ、これは、なになに、ななにごと、だ?」
「宰相閣下、並びに皆々様。陛下の一大事にございます。
ご静粛に!」
扉の前に座り込んでいたイルスは、中から主の声に呼ばれるのに気づいた。
どれだけの時間が経ったのだろう。
組んでいた足がしびれるくらい長かったようだ。
今日は仕事にならないと帰った者が半数いたが、残り半数のほとんどが、事の詳細と成りゆきに興味心身で待っていた。
真面目に務めを果たそうとするものには悪いが、今日は仕事にならないだろう。
「失礼いたします」
扉を開けると、主は大きな窓のそばにいて、レセリアナは執務机のそばにいた。
ほとんど動いていないに等しい。
失敗か……。
「イルス」
「はい、陛下」
「後宮を片付けよ」
「はぁあ?」
イルスは間抜けな声をあげた。
行くときは半月という最速記録をだせたが、帰りまではそうは行かなかった。通常より遅く、ひと月と半かかった。
いったん、イルスの屋敷で衣服を改めることにした。
何せひと月だ。砂がこびり付いて髪が真っ白になっている。
レセリアナの帰還に喜ぶ婚約者は、嬉々として彼女の世話に取り掛かった。
「これからが勝負ですわ、レセリアナ様!」
彼女は常に楽しそうだ。自分の想定どおりにことが運んで嬉しいのだろう。
二ヶ月近く公務を放り出していたイルスだが、年に数度、〈水守〉の里に行くので誰も不思議に思わなかった。
ただその隣に銀髪の少女を連れていることに誰もが驚いた。他国からの留学生が出入りする宮廷だが、それでも銀色の髪は珍しい。
イルスを信奉(というらしい)している貴婦人一行がハンカチを噛んでいる。どんなに美しく(というらしい)着飾っても、さすがに髪を銀色に染める手法はないようだ。
主の執務室は相変わらず混雑していた。
扉は開けられたまま、書類を持った大臣、書記官たちがずらりと外まで並んでいる。
執務室へは一人ずつ入るが、控え室はとぐろを巻くように人がいる。それが今日ははみ出したようだ。
控え室に現れたイルスたちの姿に、誰もが息を飲んで道を開けた。
「みなさん、申し訳ない。先に失礼する」
一言言い置いて、イルスは執務室に入った。
大臣も書記官もいなかった。先ほど持ち込まれた書類の吟味をしていたようだ。
主はイルスの姿を見て表情をかすかに緩めた。
おそらく労いの言葉を言おうとしたのだろう。
唇が震えて止まった。
「…………イル、ス……?」
それだけ言うのが精一杯のようだ。
「勝手にも長らく留守をいたしましたこと、お詫び申し上げます。
お詫びといっては不敬にもあたりますが、土産を持参いたしました」
イルスは背後のレセリアナを前に出した。
イルスは呆然とする主と緊張して固まったレセリアナを残し、宰相と書記官と護衛たちを執務室から追い出した。
控え室の扉を閉め、そのまえに陣取る。
「イ、イ、イルス、補佐? こ、こここ、これは、なになに、ななにごと、だ?」
「宰相閣下、並びに皆々様。陛下の一大事にございます。
ご静粛に!」
扉の前に座り込んでいたイルスは、中から主の声に呼ばれるのに気づいた。
どれだけの時間が経ったのだろう。
組んでいた足がしびれるくらい長かったようだ。
今日は仕事にならないと帰った者が半数いたが、残り半数のほとんどが、事の詳細と成りゆきに興味心身で待っていた。
真面目に務めを果たそうとするものには悪いが、今日は仕事にならないだろう。
「失礼いたします」
扉を開けると、主は大きな窓のそばにいて、レセリアナは執務机のそばにいた。
ほとんど動いていないに等しい。
失敗か……。
「イルス」
「はい、陛下」
「後宮を片付けよ」
「はぁあ?」
イルスは間抜けな声をあげた。