「斬り刻んでしまえそんな男!」
「マリーに恨まれるぞ」
「……!!」
 アルフレッドは歯噛みした。
 長姫たちが、アルフレッドではなくどこぞの小僧が好きだと言ったときくらい悔しい。



「まだマリーには出生のことは話してはいない。
 だが恐らく、何らかの形で行き着くだろう。そして自分の血筋を考えて、結婚を躊躇うことがあるかも知れない。
 それで、頼めるか、フレッダ?」
 なぜそこで姉に頼む?
「えぇ。わかったわ」
 何をですか姉上。

「そうね。……わたしはコレッタがいいと思うわ」
 それはアルフレッドの七番目の子、五番目の娘。
「まだ小さいけれど、とても深い考えをする子よ。伯父上様のお気に入りでもあったのだし」

 妻が亡くなってすっかり人に会わなくなった叔父は、唯一、五番目の娘は気に入ってくれた。アルフレッドの四番目の妻とともに行った養生先で、二人は出会ったようだ。
 しかしまだ、娘は十一歳だ。

「無理だ。コレッタは成人もしていない」
 何をさせるのかわからないが、アルフレッドはとりあえず反発した。
「年内に改定しろ」
「待て貴様! 簡単にいうな!! わたしの娘に、いったい何をさせる気だ!」

「マリーナの子はおまえにとって孫にも等しいだろう?」
「う……」
「見たくないか?」
「くっ」
「見たいだろう?」

 まるで悪魔の囁き。
 いや、ヤツは悪魔も同然だから、悪魔の囁きなのだこれは。



 結局、二年内の改定作戦案まで練り上げ、ヤツは帰還した。最初から言えばアルフレッドだって反対派はしない内容だった。

 一晩中、姉の屋敷でアルフレッドと三人。
 夜鳴きしてむずがる末弟の扱いに困っていた二人の目の前で、ヤツが寝かせつかせたときを思い出した。いつのまにかアルフレッドたちも眠っていて、姉弟三人でヤツの寝台を占領していた。

(何ということだ)
 こんなことを思い出したいのではなかったのに。
 母性、いや父性的なヤツの姿など滑稽だ。いくら末弟が懐いていたとはいえ。姉が愛したとはいえ。
 アルフレッドがどれだけ……信頼したとはいえ。





 その日アルフレッドは、始終、不機嫌だった。

 宰相以下、主君の珍行を見ていた騎士たちは黙認した。いま藪を突付けば蜂ではなく熊が飛び出てくることを察していた。

 もくもくと、もくもくと執務室は動いた。