その子どもはレアフといった。
 子どものように見えて「僕は二一歳です」と言いやがった。
 アストが嫌いな金持ち坊っちゃんの雇われ人で、顔は女の子のように可愛いのに腹黒い。

 家出した身でいうのもなんだが、たとえどれだけ離れていようと母は怖……悲しませたくない。
 それを逆手にとってこの悪魔、いうことを聞かないと母に告げ口するというのだ。
 ヤツの腹黒さは右に出るものはいない。

 その黒い腹はぺたんとしていて、ほっそりとした体のどこにはいるのか、アストの分のパンまで食いやがった。

「返せ!」
「いま戻すんですか?」
 ヤツは口に指を突っ込もうとした。
「やめろ!」
「どっちですか。わがままだなぁ」
「……っ」
 可愛くない。なんて可愛くないんだこのクソガキ。



 依頼を受けて一週間。
 アストたちは出発した町から西へ進み、国境の砦まで来ていた。

 アストの分の通行証明書を発行するのに、明日の午後までかかると言われ、今日は砦の宿に泊まることにした。
 国境の町らしく宿はほぼ満員で、食堂は合い席だらけだった。

 アストたちの合い席相手は赤鼻の商人だった。赤い鼻よりも大きな宝石のついた指輪が四つ、腸詰め肉のような指にはまっている。
 赤鼻の商人はアストたちの漫才(本人は否定)に腹を抱えて笑い、酒を追加し、頬まで赤くするほど呷った。
 最後には椅子から転げ落ちて寝てしまった。

「運んであげてください」
「俺が?」
「ほかに誰が?」
「宿の人間に……」
 と目を彷徨わせると、厨房にはハムのような腕の女将が鍋を振り回し、食堂の机の間を駆け回る少女が一人、二人……。

「か弱い女性になんてことを……」
 ヤツは非難の目でアストを見た。

 か弱い? あんなでっかい鍋振り回して豚の首を包丁一本で切り落としてるおばはんが、か弱い? おまえ一度、医者に目玉診てもらってこい───と言いたいのを堪え、アストは赤鼻の商人に肩を貸して部屋に連れて行ってやった。

 一日一善なんて信条、絶対に掲げるもんかと思った。