俺はもしかして、愛されているんだろうか?



 オレが中三のときにムカツク教師の背中に蹴りを入れたために呼び出されて平謝りしていた親とは約三年間、まともにしゃべっていない。

 朝起きたときには家には祖父ちゃんしかいなくて、ときどき朝帰りの姉ちゃんと鉢合わせるくらい。
 ぼちぼち学校に行って適当にバイトして帰ってくると夜で、晩メシはカップラーメンとか、たまに冷蔵庫に残りもんのおかずがあってそんなのを食っていた。

 学校が休みのときは友だちの家かどこか外にいて、毎年夏休みに行っていた海水浴も、毎年冬休みに行っていた母の実家も、毎年春休みに行っていた遊園地とかも中二までだった。



 高校卒業した先輩がやっと免許取ったからって、若葉マークが六個もついた車に乗せてもらった。
 信号機もない絶好のドライビングロード。
 興奮したオレたちは先輩を煽ぎまくり、煽られた先輩のアクセルはヒートアップした。

 ヒートアップついでに、オレたちは宙を舞った。



 気づいたら薬臭い白い部屋で寝ていた。
 隣で友だちが、ギプスで二倍の太さになった脚を釣られていて、その向こうに先輩が首に白いでっかい襟をつけてウンウンとうなっていた。
 あぁ、事故ったんだ、とわかった。

 どたどたと騒がしい足音が近づいてきたと思ったら、トドみたいな母ちゃんが爆発した頭で病室に現れた。
 その次にネクタイがリボン結びになった父ちゃん。
 次に化粧バッチリでも靴下左右別々だよ、の姉ちゃん。
 祖父ちゃんは留守番のようだ。

 家族総出(マイナス一)でオレの横たわる寝台にしがみつき、雄叫びを上げ始めた。
 何と言っているかわからない。みんな一斉にしゃべるもんだから、しかも舌噛んだりろれつ回ってなかったりで散々。

 隣の友だちが大声に驚いて寝台から転げ落ち、先輩の唸り声が大きくなった。
 この病室だけライブハウス並みの音量だ。
 看護士さんががんばって「静かにしてくださーい!」って言ってるみたいだけど、オレのとこまで聞こえてこない。



 耳の奥が痛くなる。
 いいかげん口閉じろよオイ、と言ってやりたい。
 でも、もう少し言わせてやろうと思う。

 だって。

 だって、母ちゃんの左手が俺の手を下から包んで、母ちゃんの右手がオレのでっかい絆創膏の貼られた頬を撫でている。
 父ちゃんがその母ちゃんの両肩に手を置いて、姉ちゃんは涙を流しながら鼻水をすすっている。
 病室の入り口に祖父ちゃんがひょこりと現れて、オレの大好きなオロ○ミンCのはいったビニール袋を掲げて見せる。

 なんだ。

 なーんだ。

 何だかんだあったって。
 長いことしゃべらなくたって。

 オレって、愛されてるんだな。



 たぶん。



 ごめんね看護士さん。
 もう少しだけ、騒々しいなかにいさせてくださいよ。