跨ごうとしたら、それは動いた。

「……きもっ」
 うねうねと踊りながらそれは起き上がった。

「大丈夫」
 何がだよ、と問い詰めたい。

 いきなりしゃべりだした水溜まりは人間様に向かって説教しやがった。
 水溜まりに説教されるなんて前代未聞だ。
 明日はテレビ局から取材陣が殺到して全国ネットで放送されるかも。



 とはいっても、気持ち悪くて一歩後退。
 けっして怖かったからなんてことはない。

 ズズイ

 努力虚しく、一歩詰め寄られた。
 水溜まりのくせに!



「大丈夫」
 水溜まりが言った。

 口なんてないくせに大丈夫だなんてデカい口叩くな。

 大丈夫、と水溜まりが近付く。
「いつかボクが乾くように、君の涙も乾くから」


「…………――」



 水溜まりに慰められるなんて悔しい。

 悔しいついでに乾くまで見張っていたら、
「ありがとう」
 なんて勘違いしやがった。



 ばか野郎。

 あたしは涙でまえが見えないから、乾くまでちょっと立ち止まってただけで。

 こんな人気のない裏道の端っこに一か所だけなんてかわいそうとか全然思わなかったし。

 びっくりしたけど慰めてもらって嬉しかったなんて。

 水溜まりごときに感動したなんて。


 ありがとうなんて。

 口にしないけどありがとう。