いまさらだがあたしは彼が好きだった。


 だった、というからには今はもう違うかというとそれも微妙。

 顔はキレイ、ていうかカッコ良くなって、身長も伸びて一段と見上げるかたちになった。
 学生じゃなくなったからバイトも増えて、顔に余裕みたいなのがある。
 友だちの紹介で知り合った時点が初対面だったらOK出したかも。

 それくらいイイ感じ。


 でもなんか違う。
 なんか足りない。

 久しぶりに会ってびっくりしたのが治まると、胸のドキドキが止んだ。
 昔話は尽きないけど、ちょっとしゃべり疲れた。

 そろそろデザートが食べたいのに……。


「………………」


「ゆうこ?」
 突然立ち上がったあたしを呼び捨てにする彼。
 学生のころには聞けなかった呼び方。
 わたしから先に呼んでみようとか思ったこともあるけど、恥ずかしくて舌を噛むだけだった。

 でも聞かなくても良かったんだと気付いた。
 呼ばないで良かった。


「あたし、帰る」
「は?」
「カレ待たせてるから」

 ごめんね、と心にもないことを言ってサンダルを引っ掛ける。
「ゆうこ、ちょっと!」
 ごめん、と今度は友だちに対しては少しマジメに謝る。



 店を出てすぐに早足になる。
 早足は駆足になる。
 駆足は疾走に。
 自己ベストを出しそうな勢いで酔っ払いを抜き去る。



 マンションを通り過ぎる。
 着いたアパートの二階の端。
 階段を鳴らして駆け上がる。

 扉の前に着く前に鍵は手の中。
 迷いなく開ける。


「…………」
「…………」
 さすがにちょっと息が上がった。
 実際かなりかなりきつくてしゃべれない。

「……ゆうこ?」
「あ……あたし今、あんたの、し、知らない人、と、呑んでた」
「…………」
「言うことない?」

 これでも怒らなかったら別れよう。
 マジで別れる。

 あたしばっかり焼きもちやくの疲れたから。

「…………」
「……えっと」
「………………」
「おかえり」


 破局決定!!


「いじめられた?」
「は?」
「泣いてるから」

 何言ってんだこいつ、と思いながらも手は頬に行く。

「あ」

 泣いてた、あたし。

「な……なんでよぉ」
 玄関に座り込んで本格的に泣き出す。

 マスカラ?
 今それどころじゃない。

 誰かさんは頭をなでてくれる。
 よしよし、なんておまえはお父さんか!



「ごめんね」

 あたしじゃなくて彼が謝る。

 勝手に呑みに行ったのはあたしで、男が来るってあたしは知ってて、男女は同数だと疑わなかったあたし。


「怒ってみろよバカ!」
「怒ったらもっと泣くし」
「わかってるんなら言うなバカぁ!」

 ただの逆ギレ。
 八つ当たり。



 だって好きだから。
 もっと独占してほしいから。
 もっと強く押してほしいのに。



 ごめんね。
 ホントにただの八つ当たり。



 優しい人が理想なんて嘘です。
 あたしだけに優しいあなたが理想の彼氏です。


「ごめんなさーい!」
 よしよし、なんて頭をなでてくれるあなたが大好きです。