「最南の国の、ロイズ家の家紋だ」
「ロイズ……?」

 アルフレッドはすぐには思い出せなかった。さきに姉が気づいて口元を手で追おう。
「マリー様!」

 その名で気づいた。

 マリーナ・ロイズ。
 叔父の妻。



 幼い頃、人質同然にアルフレッドの父に贈られ、その弟に下賜された姫君。
 子犬のようにつぶらな茶色の瞳と、見事な栗毛。細い肩が印象的だった。
 病弱な人で、でも弱さを見せず、何度も姉と手紙のやり取りをしていた。姉はどんなに慰められただろう。

 亡くなったのは十五年前。
 三年ほど寝込み、帰らぬ人となった。

 叔父は悲しみのあまり酒に溺れ、先年、亡くなった。



 どんなにあの人の幸せを願っただろう。

 小さくてもいい、婚儀を挙げさせてほしいとアルフレッドは言ったのに、叔父は必要ないと笑った。
 自分たちはいつかあなたの脅威になりかねない、自分たちの子どもはあなたに牙を剥くかもしれない───そんなことを言って、婚約者のままだった。

 最期まで。

 今も墓石にそう刻まれている。
 永遠の恋人、と。





「ウィンストン家と、ロイズ家の……家紋」
 それは両家の血を継ぐ者だけが持つことができる。
「では…………お子、が……?」
 姉の口元が喜びに震える。

「……どこに、いるの? その子はどこに!?」
「目と鼻の先まで来ている」
「どこに? ここに呼んで。お願いだから、会わせて」

 ヤツは苦笑した。
「今は無理だ。戦時中だから」
「…………え?」

「まさか……」

「ウィルの口癖を覚えているか?」
 アルフレッドの呟きを無視し、ヤツは言った。
「いつか爵位を捨て、田畑を耕すようになったら。

 食べられるだけの作物を育てて、多い分は売ってお金に換えて。
 子どもは、最初は女の子がいい。次は男の子。その次は、生まれてくれればどちらでもいい。

 涙が出るほど幸せな、小さな家族でいたい。
 そして」
 叔父はなんと言っていただろうか。

 そうだ。

 最初の女の子には、ウィリアナ。
 次の男の子には、マリオン。

 自分たちの名前をあげたいと言っていた。