姉は遠くを見つめた。ちょうどオレンジ色の薔薇のあたりだ。
「いつも威張っていらして、わたくしの話なんてちっとも聞いてくださらなくて。わたくしからおまえを取り上げようとしたりして。
酷い人だったわ」
「叔父上は、優しい人だと、おっしゃっていました」
「そうね。優しくはあるわ。でもわたくし、弱い人は嫌よ」
「父上が、弱い人……ですか?」
アルフレッドは驚いた。
髭を生やした背の高い父は、幼いアルフレッドにはとても強く見えた。
「周りの者の言いなりよ。おまえのことも、周りが決めたことだったもの。
すべてが決まってしまって、部屋に下がって妻の膝の上で泣くような人よ。あの歳にまでなって」
うふふ、と姉は笑う。
いつ見たのだろう、そんな場面。
弱くて、優しくて。
周囲の者たちの傀儡の王。弟だけはと遠くに逃がし、我が子を人質に送り出さなければならなかった国主。
悲しいことがあると、妻の膝に縋りついて涙した。
「わたしは、あまり、父上のことは知りません」
「そうね。おまえの前では不安な顔を見せまいとしていらしたわ。それは誉めて差し上げるべきよね」
なぜ今になって父のことを思うのだろう。
父が弟のために苦心し、傀儡の王を務め上げたという事実を知っても楽しくはない。
だが、父が自分にも何か心砕いてくれていたということに、少しだけ嬉しくなった。
ほんの、少しだけ。
「どうしたの? 急に、父上のことなど聞いて」
「……いいえ。このところおかしな報告が多いので、息抜きがしたかったのです」
「そう。では、お茶を淹れてあげるわ」
姉に手を取られ、いつものテーブルに向かう。
お茶をする場所はここと、姉は決めていた。
猫足の白いテーブルのそばには大きな樹がある。枝は赤い煉瓦の壁を追い越し、外にまで向かっている。
「あの木の枝は、すこし剪定するべきではありませんか?」
「え? あぁ、あの木はダメよ。切ってはいけないの」
「なぜです? そとから侵入しやすくなっています」
「大丈夫よ」
姉は自信を持っていった。
その自信の値打ちはわからないが、保障はあるだろう。アルフレッドはその木については触れないことにした。
「……姉上?」
「なぁに?」
「なぜ、茶器が三人分なのですか?」
「まぁ。三人で二つは飲みにくいでしょう?」
「もう一人は……?」
末弟がくるのかと思い、アルフレッドは首をめぐらす。
と。
「いつも威張っていらして、わたくしの話なんてちっとも聞いてくださらなくて。わたくしからおまえを取り上げようとしたりして。
酷い人だったわ」
「叔父上は、優しい人だと、おっしゃっていました」
「そうね。優しくはあるわ。でもわたくし、弱い人は嫌よ」
「父上が、弱い人……ですか?」
アルフレッドは驚いた。
髭を生やした背の高い父は、幼いアルフレッドにはとても強く見えた。
「周りの者の言いなりよ。おまえのことも、周りが決めたことだったもの。
すべてが決まってしまって、部屋に下がって妻の膝の上で泣くような人よ。あの歳にまでなって」
うふふ、と姉は笑う。
いつ見たのだろう、そんな場面。
弱くて、優しくて。
周囲の者たちの傀儡の王。弟だけはと遠くに逃がし、我が子を人質に送り出さなければならなかった国主。
悲しいことがあると、妻の膝に縋りついて涙した。
「わたしは、あまり、父上のことは知りません」
「そうね。おまえの前では不安な顔を見せまいとしていらしたわ。それは誉めて差し上げるべきよね」
なぜ今になって父のことを思うのだろう。
父が弟のために苦心し、傀儡の王を務め上げたという事実を知っても楽しくはない。
だが、父が自分にも何か心砕いてくれていたということに、少しだけ嬉しくなった。
ほんの、少しだけ。
「どうしたの? 急に、父上のことなど聞いて」
「……いいえ。このところおかしな報告が多いので、息抜きがしたかったのです」
「そう。では、お茶を淹れてあげるわ」
姉に手を取られ、いつものテーブルに向かう。
お茶をする場所はここと、姉は決めていた。
猫足の白いテーブルのそばには大きな樹がある。枝は赤い煉瓦の壁を追い越し、外にまで向かっている。
「あの木の枝は、すこし剪定するべきではありませんか?」
「え? あぁ、あの木はダメよ。切ってはいけないの」
「なぜです? そとから侵入しやすくなっています」
「大丈夫よ」
姉は自信を持っていった。
その自信の値打ちはわからないが、保障はあるだろう。アルフレッドはその木については触れないことにした。
「……姉上?」
「なぁに?」
「なぜ、茶器が三人分なのですか?」
「まぁ。三人で二つは飲みにくいでしょう?」
「もう一人は……?」
末弟がくるのかと思い、アルフレッドは首をめぐらす。
と。