大人たちの世界に飛び込まざるをえず、何度も父への呪いを吐いたアルフレッドに叔父は優しく説いた。だが幼いアルフレッドにはなんのことなのかわからなかった。

 今ならわかることがある。
 ときおり気づくことがある。

 ポプラの囲い。
 野ばらの道。
 鉄扇の門。
 金木犀の小道。
 三色菫の絨毯。
 雪柳の白い滝。
 魚柳梅と花簪の迷路。
 藤の東屋。
 姫向日葵の小丘。

 どれもが小さく、可憐な花でできた花園。薔薇のような豪華さも、華やかさもない。
 なのに美しいと誰もが感嘆する楽園。



『心から、あなたを案じておられました』

 父は王としては凡庸だった。
 戦略を練るよりも、道路の整備や急流に耐えられる橋の建築をするのが好きだった。そのときの顔がとても生き生きとしていたことは覚えている。
 自分の治める土地に施すことができないものを、父は弟に渡したのかもしれない。

 年中花の絶えない庭。
 見事な展望の東屋。
 暑さをしのぐ木陰。
 庭からひっそりとした佇まいの見える屋敷。



 父は、どれだけのものを叔父に残したかったのだろう。どれだけのものを残せたのだろう。
 揺れる政から叔父を逃がすため、田舎の領地に追いやり、住まいはまるで、あの───王の憩いの園に似て。



 父は何を案じ、何に喜びを感じたのだろう。

 アルフレッドは、幼い頃亡くした父を、自分が思う以上に知らないことに気づいた。



「コリィ?」
 姉の声に気づいて、アルフレッドは自分が東屋の近くまで来ていることに気づいた。

「どうしたの?」
 微笑みで迎えられ、手を引かれるままに姉のとなりに座る。

「姉上。父上のことは、お好きですか?」
「あら。そうね。あまり好きではないわ」
「なぜ?」
「だってわたくしに、三二歳も年上の方のもとへ嫁げとおっしゃったのよ」
 それは許せない。

「しかもあごの先が割れていて、眉毛が目にはいりそうな方だったの。その眉毛を毎朝侍女に磨かせているんですってよ」
 姉の美意識だけでなく、アルフレッドの判定にも不合格だ。

「いえ、そういうことではなく。
 父上は、どんな人でしたか?」
「……そうね」