なぜだ、なぜだと呟きながら廊下を進む。
 普段は沈着な主の珍行に戸惑う騎士たちにも気づかないほど、アルフレッドは苦悩していた。



 あれはもう十七年も前。
 長姫たちはすでに嫁し、アルフレッドは名実ともに賢明王の名にふさわしい主となった。正室との間には世継ぎをもうけ、側室は三人。子どもはなんとか両手で数えられるが、先はまだわからない。

 西の大国とは新王の代になっても腹の探りあいだが、少年王は如何せん、経験と信頼が足りない。
 アルフレッドが一枚上手だ。

 南の国は自然と自国となった。
 元王子は凡庸に従順に育てられ、アルフレッドを父のように慕っている。今のままなら優遇してやっても良い。



 東の属国は意外と使えることがわかり、手厚く保護してみた。すると面白い発展を遂げ、アルフレッドの国にも利益をもたらした。

 南西の属国は仲の悪かった兄国と少し歩み寄ったようだ。
 アルフレッドには構わないことだ。



 約二十年前のこととなった今でも先の大戦の傷跡は完治しないが、国境の管理も街道・田畑の整備も順調に進んでいる。
 軍縮はしたが質は保つように心がけている。国土が広くなった分、監視の目はいくつあっても多いことはない。

 今は長男の妻に頭を悩ませるくらいだ。
 もう十六歳だ。遅くはない。
 宰相の孫娘も言いが、とある男爵令嬢も捨てがたい。血筋も大切だが、中身も需要だ。





 鼻腔をくすぐるものに気づいて、アルフレッドは立ち止まる。もう姉の屋敷に着いていた。
 そのことに気づいて初めて、アルフレッドは当惑した。

 姉になんと言えばよいのだろう?
 あの男が来た。あの男が生きていた───いまさら姉に言うことか?

 いいや、とアルフレッドは首を振る。
 姉こそこの事実を知るべきだ。そして十七年間の呪縛を断ち切らなければならない。

 あの男は主を守って兇刃に倒れたと言われていた。しかし生きていたならば、その主は十七年前、自らの命と騎士の命とを失わずにすんだことになる。
 それを知れば、きっと姉は何一つ背負うことなく、幸せな人生を送ってくれるだろう。

 これはぜひ、報せるべきだ。



 アルフレッドは足早に廊下を進む。
 案内役を申し出た執事を押しのけ、貴人の突進に驚く侍女たちを通り過ぎる。
 玄関から一直線に進んだ先は庭の羽根のように広げられた大扉。
 その先は満開の薔薇園。

 花の門をいくつかくぐり、小さな橋を渡り、木立の道を歩く。
 そのときふと、この道がどこかに似ていることに気づいた。

 叔父の庭だ。

 薔薇園の造りは昔から変わらない。アルフレッドたちの叔父の庭は、父の代に大きく変えられたと聞く。



『お父上を恨んではなりません。
 あの方は、とても弱い方なのです』