「手の内をあかしてもらおうか、聖女の使者よ。
 戦力ではなく兵数がほしいというのは、どういうことだ? またそれによる報酬は何だ?」
「報酬は絆。兵数が必要な理由は、自分でご覧ください」
「無理だな。貴重な兵士を無謀な戦略に使うわけにはいかない。もちろん、貴国との絆が我が国それほど必要だとも思えん」
 使者が盛大なため息をつく。

「コリィ」

「ん……?」
 懐かしくも恥ずかしい愛称で呼ばれた男はおもわずあごを上げる。
 今、誰が自分を呼んだのだろうか。姉でもいるのだろうかと首をめぐらせる。

「コリィ。人の胸を無断で撫でておいて、借りは返さないとはいい度胸だ」
「……………………」
「し、使者殿……なな、なにを……?」

 深い緑色の瞳がすっと細められる。
 まるで氷の刃が飛んできたような錯覚がして、男は危うく首をすくめるところだった。

「コリィ。おとなしく頭数だけ貸せ」
「…………………………!」
「し、使者殿!」
 宰相の悲鳴の声。

 沈黙の約束のため何も言えずにいる騎士たちが、無言の主と混乱する宰相と、堂々とした使者を交互に眺める。
 今この場を支配しているのは騎士たちの主ではない。確実に、この得体の知れない使者だ。

 男の頭の中で警響が鳴っている。
 この男に逆らってはいけないような、そんな胸騒ぎがする。なぜか前にも感じたことのあるような恐ろしいモノに鳥肌が立つ。

 ぎゅぅぅっと、こぶしを握る。
 ここで弱気になってはならない。たかが平民の脅しに、賢明王と呼ばれる自分が何たることか! と立ち上がった。

 途端。



「コリィ。ハゲは治ったか?」



 使者の言葉に腰が抜けた。

「ちゃんと腹巻きはしているのか?」
 もちろん、絹の腹巻きを……なぜ知っている!?

「剣術は相変わらずか? まさか……まだフレッダに負けたままじゃないだろうな?」
 姉の愛称まで出され、男は混乱した。

 この男は誰だ!?

「まさか!」
「遅い!」
 厳しい叱責。そして嘲笑の笑み。



 薄い金髪とも茶髪ともつかない、ひとつに束ねられた長い髪。迷い込みそうに深い緑色の瞳。
 美しいが女というには少々和らぎの足りない容姿に、もったいないくらい薄汚れた格好。
 このふてぶてしい口調と態度……あまりにも懐かしすぎる。



「フォスター!」