まじまじと使者を見ていた男は、はっとして気づいた。すぐにいやまさか、と自分の記憶を否定する。
(だが……よく、似ている……)

 懐かしそうな、苦々しいものを飲み下す顔になる。



「これ、使者殿。陛下の御前である。膝を付かれよ」
 男の斜め前に立つ宰相が即した。

 出入り口の扉側に立つ使者は、左右と背後を騎士、前方に五名の騎士と男という挟まれた中にいる。戦力として宰相は除くにしても、これだけの中にいれば緊張もするだろう。
 怪しげな女の使者ならたいした地位もない平民のはず。もしかすると足がすくんで動くこともできないのかもしれない。

「良い。申してみよ」
「お人払いを」
 よく通る、耳に心地良い声が言った。

「できませんな」
 宰相が答えた。
「剣も取られた丸腰です」
「暗殺者には暗殺者の武器がありましょう」
「丸裸にされて風邪を引いても、世話をしてはくれないでしょう?」

 使者の言葉には訛りがなかった。宰相ほど慇懃なものの言い方はしないが、貴族子弟でもとおる口調だ。
 やはり使者として体面よく騎士でも寄越したのかもしれない。

「騎士はこのまま。申されよ」
「では、沈黙の約束を
 ここで見聞きしたことは、誰であろうと外聞しないように」

「良い。おまえたち、ここで見聞きしたことは他言無用だ」
 主の言葉に、騎士たちは御意と答えた。
「これで良いか?」
 こくり、と使者は頷く。



「それで?」
「人員をお借りしたい」
「どれほどだ?」
「国境を埋め尽くすていど」
「人員だけか? 戦力はいかほど必要になる?」
「戦力は必要としていません」
「ほう」
 意外な申し出に、男は興味を引かれた。

 これまでシュワルド国王からは戦力と兵糧を貸してくれとしつこく言われ、国としての対面もあり、兵糧だけは送った。兵士は盗賊討伐にあてていて割けないと嘯いた。
 兵糧だけで済んでよかったと、男は思っている。もったいなくはあったが、人が減るよりは言い。食料は人よりも早く育つ。



 それにしても、聖女の使者はおかしなことを言う。つい口元にいたずらな笑みが浮かぶ。

「それではまるで、我が国にはたいした力がないと言われているようだ」
「言ってはいません。今回は必要ないと言っただけです」
「使者殿、口が過ぎますぞ。こちらは」
「国王アルフレッド・コリン陛下。───とりあえず覚えています」
「なっ……!」
 とりあえず、などと言われ、宰相の目玉がくるくると回った。あまりに無礼な口に言葉も出ない。

 男も驚きはしたが、面白い状況に最初の苛立ちも忘れ、小さな笑い声を上げた。
「陛下!? 笑い事ではありませんぞ!」
「まぁ、待て。平民にそう無理なことをいうな」
 使者が同意して頷く。
 意外と気が合うようだ。