「平民か」
「素性は知れません。
 ただ、常に周囲を騎士たちによって囲まれ、守られています。
 残っている領地のうち、三領主も味方に引き入れているようす。ほかにも……」

「なんだ?」
「その……恐らく、東の森の、山賊も、推測ではありますが、参戦している……と……」
 これは驚いた。
 騎士と山賊が手を組んでいるとは。



「その女、それほど見目良いものか。それとも何か、不思議な術でも用いるのか?」
 男の冗談に、間者は真面目に返す。

「戦時中でもありますが、年頃の娘にしては多少汚れてはおりました。遠目からも長身であることがわかります。
 髪は栗色、瞳は青。瞳の色に関しましては、シュワルド国人には珍しいものかと思われます。

 ほかには特に目立った要望はありません。魔女だという噂もありません。
 ただ、噂の域は出ておりませんが、シュワルド国民のあいだでは、王族に連なるものだという話がありました」
「王族! ……あぁ、あの娘かもしれんな」

 男の弟が妻にと望んだのは、シュワルド国の第二王女だった。
 結婚直前に不治の病にかかったとかで流れてしまったが。男にしては、運の悪い娘など弟にはふさわしくないと思い、心中で喜んだものだ。

 噂が本当ならば、じゃじゃ馬娘が結婚を嫌がっただけなのかもしれない。弟との縁談を断るのに、下手な嘘をついたものだ!

「聖女とやらの素性を暴け」
 男の怒りを含んだ声に、間者はそそくさと去った。

 入れ替わりにやってきた宰相は、不愉快な顔をしていた。今度はどんな笑い話だろうか。
「陛下。シュワルド国から使者が参っております」
「どこの領地のものだ」
 いいえ、と宰相は首を振る。
「聖女の使者と申しております」
 聖女の名に男の目が光る。
 手に取ろうとしていた書類を戻し、山になっている分を押しのける。

 弟を袖にした娘の使者が!?

「ここに通せ。そしておまえも同席しろ」



 本来、他国よりの使者とは王座の広間で騎士や重臣たちを集めたうえで謁見する。
 だが今回は国からの使者ではない。王族に連なるという噂のある平民からの使者だ。そんなもののために自分の重臣たちを動かしたくない。

 けっして私情ははいっていない。





 三人の騎士に挟まれて来室した使者は、その役目を負うだけあって肝の据わった男のようだ。厳つい顔の騎士たちに囲まれても平然としている。

 格好は薄汚れていたが、それを差し引いても見栄えのする男だった。
 見間違えれば一瞬くらいは女かと思うだろうくらい整った面立ちをしている。好色な貴族たちが擦り寄っていきそうだ。
 もしかすると姉も好みかもしれない。……いや、そんなことは許されない。