このところ、南の国境付近で小さいな争いが絶えない。
それは他国が攻めてきているというわけではなく、他国人同士が国境の向こうで争いっているということだった。
毎日はいる報告では、争いはけっして国境を越えず、また他国兵がはいってくることもないという。
五年前に始まった島国アインスからの侵略戦争は、大祝祭が終わってまもなくの開戦だったので、誰の記憶にもそのときのことは真新しい。
最初の接触が夜陰に紛れてのことだったからも、貧しい島国は切羽詰まっていたのだろう。
それももう終わりに近いことは、近隣諸国も感じていた。
領土を半分近くも取られれば、どんな王であろうと落ちるだろう。
それにしてもおかしな戦だ。
すでに王はいないと噂される国と、どうやってアインス国は戦っているのだろうか。
先日の報告では、こんなことがあった
「防戦に徹しますシュワルド国民は、賢明王との約束により、アインス国軍による我が国への侵入を防いでいるということです」
男はそのとき、椅子から転がり落ちるほど腹を抱えて笑い出すところだった。
自分はそんな約束をした覚えはない。
たしか半年ほど前、シュワルド国王家だというみすぼらしい一行を迎えたと、国境間近の領主が指示を仰いできた。
押せば転がっていきそうな自称シュワルド国王。
女の魅力の削げ落ちた自称シュワルド国王妃。
王子だという怯えて一言もしゃべらない少年と、数名の騎士と思われる男たち。
シュワルド国への援助を絶ったからには興味はなく、ましてや証拠もないので牢にいれておくよう、指示しただけだった。
約束などしていない。先触れすらもなかった。
第一、王が難民になれば、国では誰が指揮するというのか。勇将と呼ばれる男の噂はあるが、王に見捨てられた民が反旗を翻さない可能性がどこにないというのか。
偽王族一家はどう扱おうかと多少は考えた時期もあったが、今まで忘れていた。
もう勝敗は目に見えているし、必要ならば首を贈ってやってもいい。
国境からの報告は日々増えた。
そのなかで、賢明王とシュワルド国民の約束なるものは、まったくの事実のように語られる。
これ以上広まるのは良いことではないと感じていたとき、一人の女の姿があがった。
「シュワルド国民の旗本となっておりますのは、十七、八歳の娘で、『聖女』と呼ばれ、慕われているようです。戦闘の中ほどに常に武装姿で騎乗し現れ、自国民を鼓舞しております」
ほう、と男が興味深げに相槌を打つ。
どっしりとした大机の上には三つに分けられた書類の山。
精巧な細工の墨壷のペン立てには、真っ白な羽ペンが刺さっている。
そのペンの羽根を撫でる指は太く、分厚い爪はきれいに切りそろえられている。
指輪は幅広の家紋指輪がひとつと、糸のように細い指輪がひとつだけ。
豪華な家紋指輪と同じ指には、その細さはあまりにも粗末だ。
左手が髭を梳いている。男の好奇心が沸いた証拠だ。
「実際に先頭に混じることはあるのか?」
五年もすればおかしな英雄の一人や二人、出るだろうとは思っていた。
聖女出てくるなど予想外だ。どこにそんな女丈夫が潜んでいたのやら。
「ほとんどありません。剣を下げてはいるようですが、前線に出ることはないようです」
ただの飾りか、と男は頷いた。
「名は?」
「大抵のものは『聖女』と呼んでおります。少数ですが、『マリーナ』と呼んでいるものもありました」
それは他国が攻めてきているというわけではなく、他国人同士が国境の向こうで争いっているということだった。
毎日はいる報告では、争いはけっして国境を越えず、また他国兵がはいってくることもないという。
五年前に始まった島国アインスからの侵略戦争は、大祝祭が終わってまもなくの開戦だったので、誰の記憶にもそのときのことは真新しい。
最初の接触が夜陰に紛れてのことだったからも、貧しい島国は切羽詰まっていたのだろう。
それももう終わりに近いことは、近隣諸国も感じていた。
領土を半分近くも取られれば、どんな王であろうと落ちるだろう。
それにしてもおかしな戦だ。
すでに王はいないと噂される国と、どうやってアインス国は戦っているのだろうか。
先日の報告では、こんなことがあった
「防戦に徹しますシュワルド国民は、賢明王との約束により、アインス国軍による我が国への侵入を防いでいるということです」
男はそのとき、椅子から転がり落ちるほど腹を抱えて笑い出すところだった。
自分はそんな約束をした覚えはない。
たしか半年ほど前、シュワルド国王家だというみすぼらしい一行を迎えたと、国境間近の領主が指示を仰いできた。
押せば転がっていきそうな自称シュワルド国王。
女の魅力の削げ落ちた自称シュワルド国王妃。
王子だという怯えて一言もしゃべらない少年と、数名の騎士と思われる男たち。
シュワルド国への援助を絶ったからには興味はなく、ましてや証拠もないので牢にいれておくよう、指示しただけだった。
約束などしていない。先触れすらもなかった。
第一、王が難民になれば、国では誰が指揮するというのか。勇将と呼ばれる男の噂はあるが、王に見捨てられた民が反旗を翻さない可能性がどこにないというのか。
偽王族一家はどう扱おうかと多少は考えた時期もあったが、今まで忘れていた。
もう勝敗は目に見えているし、必要ならば首を贈ってやってもいい。
国境からの報告は日々増えた。
そのなかで、賢明王とシュワルド国民の約束なるものは、まったくの事実のように語られる。
これ以上広まるのは良いことではないと感じていたとき、一人の女の姿があがった。
「シュワルド国民の旗本となっておりますのは、十七、八歳の娘で、『聖女』と呼ばれ、慕われているようです。戦闘の中ほどに常に武装姿で騎乗し現れ、自国民を鼓舞しております」
ほう、と男が興味深げに相槌を打つ。
どっしりとした大机の上には三つに分けられた書類の山。
精巧な細工の墨壷のペン立てには、真っ白な羽ペンが刺さっている。
そのペンの羽根を撫でる指は太く、分厚い爪はきれいに切りそろえられている。
指輪は幅広の家紋指輪がひとつと、糸のように細い指輪がひとつだけ。
豪華な家紋指輪と同じ指には、その細さはあまりにも粗末だ。
左手が髭を梳いている。男の好奇心が沸いた証拠だ。
「実際に先頭に混じることはあるのか?」
五年もすればおかしな英雄の一人や二人、出るだろうとは思っていた。
聖女出てくるなど予想外だ。どこにそんな女丈夫が潜んでいたのやら。
「ほとんどありません。剣を下げてはいるようですが、前線に出ることはないようです」
ただの飾りか、と男は頷いた。
「名は?」
「大抵のものは『聖女』と呼んでおります。少数ですが、『マリーナ』と呼んでいるものもありました」