ソースのかかった子ヤギの肉が突然皿から飛び出し、ダンスを踊りだしたようだ。

「何だって?」
「未亡人なの、わたし」
「未亡人?」
「夫が死んだのよ」
「死んだ?」
「だから未亡人なの」
「未亡人?」
「そう。
 わたしの夫が死んだから、わたしは未亡人なの」

 従妹は噛みしめるように繰り返した。
 問答に飽きたようだ。

 従妹は生来、気が長いほうではない。
 約束の時間に一分でも遅れようものなら扇子が飛び、最悪の場合、剣の鍔が鳴る。
 さすがあの母の姪だと感心したものだ。


 と、イルスが問題を放り出そうとしているのを従妹が許すわけがない。

「閣下。
 かわいい従妹をだだっ広い屋敷に一人で置いておく気?」
 残念なことに、イルスは従妹をかわいいと思ったことがない。

「ここに戻ってくればいい」
 ため息を飲み込んでいった。
「屋敷のことは執事にでも任せて、ときどきわたしが人をやって様子を見ておこう。
 それでいいか?」

 従妹はにっこりと笑った。
「さすがは閣下。
 お任せいたしますわ」

 もともとの狙いがそれだろう。
 とは口にしないイルスは、自分で賢明な対応だと自身を誉めた。





「しかしまた、どうしてご夫君は亡くなったんだ?」
「腹上死よ」
 鼻からトマトが飛び出しそうになった。

「……従妹殿」
「あら、ごめんなさい。
 純情な閣下の夕食の種にはならないわね」
 従妹は平然と白身魚を口に放り込む。

「閣下には悪いけど、わたしたち、最初からそういう約束だったの。
 お互いの恋人には干渉しない、ってね。

 楽しかったわよ。
 彼は妻としてわたしを大切にしてくれたし。
 大切な席にはもちろん、妻であるわたしを同伴してくれたわ。
 人に紹介するときは鼻の下が伸びるくらい自慢してくれたのよ。
 彼、口が巧いから」

「く、口が巧いから、結婚、したのか?」
「それもあるわね」
 せめてそれだけではないと言ってくれ。