「お見送りには、行かれなくてよろしかったのですか?」
「ん? ……うん」
「寂しいなら寂しいと、そうおっしゃればよろしいものを」
「…………」

 レセリアナたちは今朝早くに街を出た。
 前もって〈水守〉には連絡が出されているので、砂漠の端で里の者が迎えに来てくれているだろう。
 あとは彼らに任せれば〈水守〉の里まで無事に到着できる。

 しばらくは砂漠の生活に慣れるのに気が向いて、こちらのことにまで頭が回らないかもしれない。
 スティードは早々に馴染むだろう。
 レセリアナも、新しい生活を楽しんでくれればよいと、イルスは思う。

 よいと思うのだけれども、一度に友人二人と離れてしまうことにも、前の晩は眠れないほど葛藤した。
 おかげで目の下に隈ができてしまい、今朝から侍女たちが騒がしい。
 黄色い声が頭の奥に突き刺さるようだ。


「若は少々、がまん強すぎる嫌いがおありですのう」
「どういうことだ、じい?」
「イヤならイヤと、欲しいなら欲しいとおっしゃればよろしいのです。
 がまんは体に毒でございます」
「わたしは……」

 我慢などしてないとイルスは言おうとした。
 けれど今は我慢している。これは事実だ。

「どうすればいいんだ、じい?」
「若にはどんなことでもお話できる方がいらっしゃいます」
「……従妹殿か」

 けれど彼女はすでに家庭を持ち、人の妻である。
 未婚の異性が自宅に呼び出すのは失礼だ。
 呼び出された本人は気にしないだろうが、世間は気にする。

 と思って何も言えずに屋敷に戻ったイルスだが、なぜか従妹がいた。
「ごきげんよう、閣下。
 お久しぶりね。
 あら、冴えない顔ね。お肌が荒れているわ」

 なぜ女性は肌の調子を常に気にするのだろう。
 不思議だ。



 当然のように泊まっていくらしく、時間のかかる料理を夕食用に注文している。
 夕食用の衣装も念入りに支度する。
 毎日毎日、ものすごい費用になるのだろう。
 夫殿はどう思っているのだろうか。今度、参考に訊きたい。


「ねぇ閣下。
 わたしね……」
 珍しく従妹が口篭もった。
 明日はサボテンが空から降り注ぐのかもしれない。
「どうした?」

「未亡人になったのよ」

「は?」