「会っては、いけない人なんだと、思っていました。

 わたしは父が国王だとも知らず、ただ会ってはいけない人なんだと思って、母にも確かめずいました。
 母が毎日話してくれる父のことをずっと信じていました。

 長い旅をしている人なんだと。


 いつか旅が終われば、一緒に暮らせるかもしれないと、母は言いました。
 そのときのために、母は毎日のように父の書斎を掃除していました。
 父の服を洗っていました。

 わたしも、父と一緒に暮らせる日を待って、最初に何を言おうかと考えていました。
 やっぱり最初は、お帰りなさいって、言おうと思っていました。

 でも……もう。
 叶わないんですね」

 小さな声は悲しく響いた。

 青白い星が震えて今にも落ちそうだった。


「だったら、まだ会ったことのない人に会ってみたらどうだ?」
「え?」

「砂漠は初めてだろう? 〈水守〉にはいろんな部族が集まる。
 〈水守〉は、砂漠で一番大きなオアシスを守っているんだ。
 掟を守るのなら誰にでも水を分ける。

 〈水守〉にはカウドという長老がいて、いろんな話をしてくれる。
 英雄王の若い頃の話もしてくれるぞ。
 それから精霊王と火の女神、賢者アーイ、涙の泉。

 砂の川下りも楽しかった。
 砂がな、川の水のように流れているんだ。船で渡ることができる。

 ゴッダという部族には気をつけろ。
 戦闘民族だ。負ければ耳と鼻を切り取られる。

 それと祖を同じくするゴイズという部族はすごいぞ。
 剣術の達人揃いだ。
 相応の報酬を払えば完璧な護衛を務めてくれる。

 ガンドイ族という、素晴らしい舞踊の達人がいてな。
 頭に鳥の羽根を乗せて踊るんだが、ただ乗せているだけなのに、羽根は揺れはしても落ちないんだ。
 今はわたしが、伝統保護指定に推薦しているところだ。

 イサーラという部族は……」
 次第にレセリアナの目に涙が浮かび、溢れても、イルスは気づかない振りをして話し続けた。

 レセリアナは声もあげず泣いていた。
 しばらくすると涙を拭いて、話し終えたイスルに微笑んで見せた。



「楽しみです。閣下」
 浩々と輝く月明かり以上に、彼女の笑顔は明るかった。