それから三日後。
 サース国から使者が到着した。

「退位……?」
 まるでその言葉の意味がわからないかのようにレセリアナは呟いた。

「あの、兄は……王、は……?」
「前王におかれましては蟄居を命ぜられ、お命だけは免れました」
「では、生きて……?」
「はい。ご生母様と奥方様、お子らとともに、地方の城にお移りになりました」

 サース国の使者は、サース国王の交代を伝えた。
 自国の恥はひとつも口にしなかったが、イルスには言われなくてもわかっていた。
 あの晩、イルスが足蹴にしたのが退位したサース国王だったのだ。あのひ弱い男が。

 最初の驚きが落ち着くと、イルスは主の表情に気づいた。
 眉間に深いシワがある。
 ……珍しい。


「新王にはどなたが?」
「王兄であられました、リコイ様です。

 急なことでしたので、即位式は簡略的に行いました。
 つきましては、一年後の即位記念式にはぜひご出席いただければとの、新王の旨をお伝えに参りました」

 使者の差し出す手紙をイルスから宰相に、宰相から主にと手渡される。
 主はじっと手紙を見つめた。
「確かに。
 一年後を心待ちにしていますと、伝えていただきたい」

 使者は聖皇帝との謁見に緊張して気づいてはいないだろう。
 訊き慣れたイルスにとって主の声は、いつもより冷淡で静かだった。





「レセリアナ……?」
 月夜に銀髪が煌いていた。
 黒や赤い髪の色を見慣れたイルスには、レセリアナはいつも輝いて見える。

 だが今、表情は曇っている。
 いや、このところ笑顔を見ていない。

「閣下……」
「どうした?」
 レセリアナの手にはサース国の使者から渡された、新王からの手紙があった。

 レセリアナにとって新王は異母兄にあたる。
 だが新王の生母は公式的な側室。しかも公国からの姫君。

 レセリアナの母君は富豪といえど商人の娘。誰にも知られず、王の寵愛をひっそりと受けていた。
 レセリアナは庶子で、王位継承権もない。

 どんな気持ちだろうか。
 同じ「正妻の子でない」にもかかわらず王となった人が兄という現実は。