声のしたほうには白い衣がいた。

「フィー様」
 イルスが一番に気づいてその人を呼んだ。
「こんにちは、ダーナ卿。
 窓から失礼しますよ」
 彼はなぜ扉を使わないのだろう。

「初めまして、レセリアナ」
「あなたは……?」
「残念ですが、数日中にはかの国からの使者が到着します。
 あなたにはそれまで、ここに留まっていただきましょう」

 音もなく、フィーの足元に黒猫が現れた。
「無理にでも王宮を出ようとすれば彼女が止めに入ります」
 猫が?

「手荒なことはしませんが、注意してください。
 スティード。あなたもよく見ておくように」
「…………は、はい……………………」
 どうやらスティードは魔導士全般が苦手のようだ。
 でも猫よりは役に立つと思うイルスだった。



「あなたは……?」
「大きくなりましたね、レセリアナ。
 名前は気に入ってもらえましたか?」
「え。名前……?」
「フィー様?」

「春陽の乙女レセーニアと祝福の乙女ナラトニア。
 どちらも春を差し、誕生と復活を意味します。
 彼はとても詩人なんです」
「彼?」
「銀の聖女を愛した人ですよ」
「え……」

 三人の驚きと疑問の声を無視し、フィーはふわりと空気に溶けて姿を消した。

 もしかして、レセリアナを足止めさせるためだけに魔法を使って来たのだろうか?
 ものすごく律儀な人だ。

 よほどヒマなのかもしれないが。