「ときおり、我らの意見は一致する。
 過去から未来までが脅かされるとき、またはされようとするとき、治める者を替え、転機を計ろうと」

 レセリアナは聡かった。
「兄は……」
「命までは奪うことはないだろう。今回は」
「……今回は?」

「ハッサム殿」
 彼は窘めた。歳若い少女に話すことではない、と。
「自国のことにございます」
「…………」


「魔女の子よ。覚えておくといい。
 魔導士は国の王にひざまずきはしない。
 助力するに値するもののためなら命も賭けよう。そうでないものには容赦しない。
 それが、魔導士というものだ。

 そうして、今おまえの目の前にいる聖皇帝が誕生したのだ」

 レセリアナは見開いた目で彼を見た。
 彼は無表情のなかに確かな苦悩を浮かべていた。
 いつもレセリアナが感じていた、彼の薄暗さと儚さをはっきりと感じた。

「陛下……」
「ハッサム殿。もう良いでしょう。
 レセリアナにはそれだけで充分です」
 彼はレセリアナから視線を逸らしたまま言った。

「準備をしろ、レセリアナ。
 おまえは砂漠に行くのだ」
 イルスは浮かれていた。
 晴れてレセリアナは堂々と砂漠へ行ける。

 砂漠の生活に慣れるまでは大変かもしれないが、経験のあるイルスは快適な暮らしができると信じている。
 スティードもいるし、ときどきはイルスも〈水守〉の里へ用がある。
 いつでもとはいかないが、また会えるのだ。

 イルスは喜んでいた。
 だから明日には出発だというときにレセリアナが帰郷したいと言い出したとき、何のことなのかわからなかった。

「なぜ? いったい、どうしたんだ?」
 扉近くに控えるスティードも首を傾げて見せた。
 相変わらず説得が下手な男だ。

「兄は愚か者です。ですが、それでも、わたしの兄なのです」
「それでおまえに何の責任がある? スティード、おまえからも言え」
「いいましたよ、何度もね」

「レセリアナ、いったい何があったんだ? 早まるんじゃない」
「いいえ、わたしは」
「無理ですよ」
 四人目の声がした。