男は寝台に腰掛け、手に長いものを持ち出した。
 剣だ。
「何者だ」
「北よりの使者にございます、陛下」

 今度は何だって!?


「レセ……わが妹を、法王が……?」
「はい、陛下」
 フィーが頭を垂れるのに、イルスも習った。

「第二の聖女として名高い妹姫の絵姿をご覧になり、いたく気に入られたご様子。
 つきましては、ぜひお譲りいただきたいと思い、参上いたしました」

「それが真である証拠はなんだ?
 おまえたちが盗賊の可能性もあるぞ」
「では、貴国の魔導士にご確認ください。
 術者は術者を視ます」

 男は寝台の横にある台から鈴を取り出し、鳴らした。
「音が……」
 イルスが小さく呟くと、フィーも呟いた。
「魔法のかかった鈴です。
 それ以外、こちらからの音は漏れていません」


 しばらくすると扉の向こうで足音が止まった。
 微かに扉が開かれる。
「陛下。御用で?」
「入れ」
 隙間から黒いものがするりと滑り込む。

 黒いものは室内を見回した。
「陛下、これは……」
 イルスと目があう。いや、フィーと目が合ったのだ。

「ひぃっ!」
 黒いものは逃げた。

 開かれたままの扉がゆっくりと動き、小さな音を立てて閉じる。
 ぱたん。

「な……なんだ、いったい……」
「おや、おや。
 申し訳ありません、陛下。驚かせてしまったようですね」

「何だと?」
「力の差がありすぎたようです。
 言ったでしょう、術者は術者を視ると」

「…………。
 おまえが、優秀な術者であることは認めよう。
 だが法王の使いである証拠がない」
「なるほど。では……お側に失礼します」

 おもむろにフィーは男に近づいた。
 窓辺に取り残されたイルスに背を向けたまま白い衣を広げて見せる。
 男は内側を覗き込み、目を細めた。

「たっ……確かに!?」
 何が確かなのかイルスにはまったくわからなかったが、身元の保証は成されたようだ。