「イルス殿。申し訳ないが、お供をしていただきたい。
 わたしは国外で姿を出すことを禁じられているため、お供できないのです」
「は……。わたし、が、ですか……?」
「心配ない。お側にいればよいだけだ」

 主にまで言われれば断れるはずがない。
 いや、断りの言葉を口にしようとした瞬間、呪われそうだ。



 善は急げといわんばかりに、イルスはすぐに略式の正装に身を固めた。
 女官たちの賛美の嵐を遠くに聞きながら主の部屋へ戻る。
 そこには細長く黒い物体と、小さく白い物体があった。

「…………」
 部屋を間違えたのだ、とイルスは一瞬思った。
 だが部屋には主の姿がちゃんとある。

「来たか。
 あれがお供をさせていただきます、イルス・ダーナです」
 主は白い物体に向かってイルスを紹介した。

 人だったんだ。

「よろしく、ダーナ卿」

 ダーナ卿だなんて、久しぶりに聞いた。
 ではなく。



 声は少年のものだった。
 背丈はイルスの肩ほどもない。
 黒い物体……もとい、魔導士・ハッサムと並ぶと白い袋の荷物のようだ。
 今にも抱えあげられそうだ。

 えっこいしょ。


 フードを取ると、月光に映える金の髪。
 深い色の大きな瞳。
 細い首はイルスの片手でもげてしまいそうだった。

 “とあるお方”?
 まさか!?


「フィーと呼んでください、ダーナ卿」
「あ、はい、フィー様。
 あの、せ、せ僭越ながら、お、お供させていただきます、イルス、と、申します。
 よろしくお願いいたします」

 これが“とあるお方”!?
 なんて親しげなんだ……。