「それで、なぜ今ごろ内乱が?」
「お二人の考える時機だったんでしょう。
 銀の聖女の後ろ盾を失い、レセを遠くに置いた今、サース国王はただの凡人です。
 この時を待っていたのかもしれません」

「ではその二人にとって、レセリアナには今は帰って来てほしくないということだな?」
「おそらく」
「しかし、これは国王の命だ」
「そうなんですよねー」
 スティードは書状を指で弾いた。

「今ここで病気にかかったなんていったら、王からお二人との仲を疑われます。共謀のね。
 おそらく使者を立てるでしょう。いや、もうこっちに向かってるかもしれません。
 それで素直に帰ったら、途中でお二人の立てた罠に行く手を遮られ、苦難の道をえっこらしょ、です」

「笑い事ではない」
「笑ってませんよ。行っても行かなくても、レセが泣きをみるんです」



 レセリアナは俯いて肩を落としていた。
「心配しなくていい。使者が来たとしても、足止めしよう」
「閣下、わたしは……」
「…………。おまえは、どうしたい?」

「わたしは……わたしは、サース国王の力にはなれません。
 でも、逆らうことも、できません」





「困りましたな」
「困ったな。どうすればいい、じい?」
 老人ははてさてと首をかしげる。

「このじいめはただの年寄りでございます、若。
 お知恵をお貸ししたいのは山々ですが、王のみならず大勢を相手取るには、慎重さと、力が必要でしょう」

 二人してため息した。



 その日、何の妙案も見つからず夕暮れを迎えた。

 イルスは主に呼び出され、宮廷の奥へ案内される。
 やはり裏からよりも表から堂々と行くほうが数倍も安心するな、と思った。

「良い報せだ、イルス」
 珍しくも口元に笑みを浮かべた主。
「何事でしょうか?」

 主は背後の魔導士ハッサムを仰ぎ見る。
「ハッサム殿が力を貸してくださるそうだ」
「え。ハ、ま、魔導士様が……!?」

 まさか呪いでもかけるのでは!?
 効果は抜群かもしれないが、人道的にそれはどうかとイルスはとっさに思った。

「いいえ、陛下。わたしの力ではありません。とあるお方が申し出てくださったのです」
「いや。ハッサム殿が声を掛けてくださったからだ。礼を言う」
「勿体のうございます」

 少しだけ安心したイルスだが、“とあるお方”が気になる。
 目の前の二人よりもさらにものすごい奇……方だったらどうしようと、余計に不安になった。