未知の領域に入り込んでしまった。

 梅苅田は気付いた。
 自分はまた試されている、と。


 小さい頃からそうだった。
 自分一人が突然、異界の迷路に飲み込まれる。
 一緒に遊んでいたはずの仲間も、手をつないでいたはずの母も知らぬ間に、梅苅田だけがなぜか異界に呼ばれる。

 そして幾度となく飲み込まれながらも生還してきた梅苅田だが、そのたびに無事とは言えない姿だったそうだ。
 傷を負い、意識を失い、何日も生死を彷徨ったと、母は涙ながらに語ってくれた。


 これ以上、母を悲しませるわけにはいかない。
 傷ひとつなく、己の力のみで帰還しなければならない。
 もちろん門限までに。


 母よ息子がいま帰るぞと、梅苅田が拳を握りしめた時だった。





「あー!
 ウメカン!」





 なんだか聞いたことある声……。


 梅苅田はゆっくりと振り返った。

「ひっさしぶりー。
 ウメカン何してんの?」
 中学生時代のクラスメイト、根津野がいた。

「おまえん家こっちじゃないだろ?
 オレん家の向こうじゃん。

 何?
 引っ越したわ……け…………?」

 根津野はいい奴だ。
 余計なことを言うけど。

 根津野は悪い奴じゃない。
 タイミングが悪いだけで。

 根津野は……――。





「うぅわぁあああ!」

「ぎぃやぁあ!」
「ネヅぅ!!」

 梅苅田は元級友を追い駆け出した。
 根津野も力一杯逃げる。

「ウメカンウメカン!
 落ち着けウメカン!

 わかった置いてかないから!
 送って行くから!


 オレまだおまえが方向音痴だなんて言ってないから!」



 根津野はいい奴だ。
 でもうっかり屋さんだ。


 梅苅田は旧友に飛び蹴りを繰り出した。